青き春は永遠に①


空が割れた。
突如、雲ひとつない青空に亀裂が入って、その亀裂の向こうには真っ黒い宇宙が広がっている。
そして、亀裂が入ったところからは空気が抜けていって、地球から空気というものが無くなっていて、やがて人類は滅んでいく。

そんな世界を想像する。

「って、そんなこと起こるわけないよな」
本田真人は、寝転んでいたベンチから起き上がり、地面に足を着いた。昼下がりの公園には、子供1人見当たらない。それもそのはずで、公園内はすべての生命体が蒸発するのではないかと思えるほど煮えたぎっていた。着ているワイシャツは汗でぐっしょりだ。
地球温暖化は、どうやら本当に進行しているらしい。
「はぁ〜、だりぃぃぃ」
大きく天に向かって伸びをする。太陽に少し近づいた指先から溶けていくような感覚になる。
コンビニにでも涼みに行くか?
「っても....」
財布から出した小銭を手の中で確認する。
10円玉が2枚と1円玉が7枚、手の中にはあった。
「大人がこれで何をしろと?」
真人は絶賛就活中の26歳。
ただ好きな人と過ごすだけで幸せだった青い春など、とうに過ぎ去ったアラサーであり、現実が嫌で、いつも世界が滅び、人類が真に平等になる世界を想像する社会人(無職)だ。
現状を嘆いていても、暑さが解消されるわけではないし、何も買わなくてもコンビニには入れる。
そう思い、立ちあがろうとしたとき、公園内に1人の女性が走って入ってきた。それはもう美しい。パッと見、20代くらいの。
彼女は半袖のTシャツにショートパンツという出立ちで、肩にかかるくらいの黒髪を弾ませながら、一直線に園内の水道へ向かっていった。
水道は、真人がいるベンチからは死角であり、美しい彼女はすぐに見えなくなった。
何やら急いでいるのだろうか。てか、こんな田舎の公園に何の用だ?
ただ、彼女の用が何にせよ、1つ疑念があった。
公園の水道とは、えてして衛生状態が保たれていないものである。まして、こんな人気のない公園なら尚更である。
まさか飲む気ではないだろうか?
こんな田舎の公園の水道なんて、死んだ蛙がイタズラで入っていてもおかしくないというのに。
いや、今の時代そんな子供いないか?
なんとなく女性が気になって、女性の向かっていった水道の下へ足が向きかけたが、ピタリと止まる。
いや待て。
こんな真っ昼間に知らない男が話しかけたら、変な疑惑を掛けられるのではなかろうか?ナンパとか変な勘違いをされるのでは?公園の水道の水は汚いから飲まない方が良いなんて、初対面の見ず知らずの奴に言われたら、変な想像をされて110番にレッツゴーされるのでは?てか、そもそも下心が無かったら、こんなこと考えないのでは?ワンチャンあるかもって思ってる自分がいる?
考えすぎだろ、と思われるかもしれない。
だが、モテない男とはこれくらい思案するのである。だから考えている間にチャンスを逃す。
真人がうだうだと考えている間に、美しい女性は用を終えたのか、小走りで公園の外へ走り去ってしまった。
「.......」
消えていった女性の背中を見ながら、真人はベンチの前で立ち尽くしていた。
立ちこめる蒸気と照りつける太陽、滝のように流れ出てくる汗を全身で感じる。


「仕事、探すか......」

これは、青春が終わりを告げた青年の再起の物語。

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