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第九十八夜 『戦場のメリークリスマス』


#大島渚 #坂本龍一 #北野武

大島渚監督の訃報を受けて数日が経った頃だろうか。当時、足繁く通っていたレンタルビデオ店で大島渚監督の作品のコーナーが設置されていた。私はその時初めて、「あぁ亡くなってしまったのだなぁ」と当たり前のことを実感した。寒い季節でコートを着込んでいたことを覚えている。

そして、今年2023年、作曲家の坂本龍一氏が逝去された。訃報を見た私は大島渚監督の時に感じた気持ちを思い出す。

『戦場のメリークリスマス』という作品はこの2人無くしては、完成しなかった作品であろう。大学時代、映画論を受講していた私はこの作品を見てレポートを書いたことがある。単位目当てのお世辞にも大した内容ではない駄文を提出した。

提出後、単位取得に追われていた生徒たちはざわつき始める。解放されたからである。そんな小さな喧騒が起きている中、教授はこの作品が評価された理由を捨て台詞のように話して部屋を出て行った。

「この作品は国内外で大きな反響を生みました。おそらくこれが初めてだったんです。日米間の戦争を中立的な視点から描いた作品というのは。」

そんな一言をどこかで覚えていた。

縁起でもないことであるが、もし北野武監督が亡くなったら、また同じ気持ちになるのであろう。

「メリークリスマス。ミスターローレンス。」

この一言が頭から離れなくなることは必至だ。

ふと私は仕事の手を止める。中立的な視点に立つことの難しさは学生の時であれば、さほど難しいとは思わなかった。
しかし今はどうであろう。
会社の利益や成績、評判等あらゆる方向からの中立でいることを阻害する要因が襲いかかる。社会人とはそういうものだ。
お客様に対して中立的な立場から対応できているであろうか。

戦争を描いた同作品とは違う。しかし、なぜか自身が中立的な立場に居ようと意識するたびに教授の一言を思い出す。
そして、考える相手の立場を理解し、自身の立場との折衷案を探る。
相手の立場から物事を見る忠恕の心を持つのだ。

時には相手の立場を理解するからこそ、押し通すこともある。
そんな時に私はいつもこの作品を思い出してしまうのだ。

坂本龍一氏の音楽と俳優北野武のセリフと共に。

「メリークリスマス。ミスターローレンス。」

物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。

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