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『最後の決闘裁判』で語る(第一回:真実)

ごきげんよう。雨宮はなです。
10月15日に公開したばかり、予告編等事前の告知でも比較的にぎわっていたにも関わらずすでに上映館が激減&上映枠も激減してしまっているのが不思議でしかたない話題作『最後の決闘裁判』を観てきました。

着眼点や感想で価値観が炙り出される、非常に恐ろしいテスターのような今作。頓珍漢なことを考えてしまっているのではないかと不安になりもしますが、考えたり話したりする”きっかけ”をもつことが大切なのだと思い起こさせてくれる作品でもあります。
正しいか否かは別として、今回も思うままに感想を綴っていきます。
※ここから先はネタバレを含みますので、ご了承いただける方のみ読み進めてください。

「真実」であって「事実」ではない?

この作品の特徴のひとつに「〇〇の真実」というタイトルで章立てが行われる点があります。性被害者のマルグリット(演:ジョディ・カマー)から見て、夫のカルージュ(演:マット・デイモン)と加害者のル・グリ(演:アダム・ドライバー)がそれぞれの「真実」を提示し、最後にマルグリットからの「真実」の提示がある…そんな作りになっていますが、最後の「マルグリットの真実」という小題をみて違和感を覚えました。じゃあ、事実はどこにあるのか?と。

時代が時代だし、客観的証拠に基づいた事実が残っていないためつくれないのは仕方ないのですが(むしろ誠実だと思う)、マルグリット的な真実なのであって彼女にとって都合の悪いことが隠されている可能性だってあるのでは…と思ったのです。彼女からの視点こそが「事実」であると扱うのはシンプルだし間違いないのでしょうが、では「マルグリットの真実」ではなく「事実」や「マルグリットの証言」でも良かったのではないでしょうか。あえて「真実」という言葉を使ったところに少しぞっとしたのを覚えています。

カルージュの真実

この章を観ると、最初のうちは「仕事人間で不器用な愛妻家」という印象を受けるでしょう。ところどころボロは出ていますが、妻にも愛され、仕事は上手くいかないけど家名と妻を守るために頑張るぼくちゃん!という感じです。そして、ボロの出し方がまた素晴らしい。ボロに気付ける男性は多くない気がします。ものすごく自分本位で、すべての矢印がすべて自分に向いている「真実」です。

また、これは私が女性だからなのか、それとも「そういう映画だと知っているから」なのか…セックスシーンやマルグリット登場シーンになると、「こう言っているけど、実際はこうなんだろうな」という推測のもと鑑賞してしまっていました。そしてそれが正解だったと後々わかりました。

カルージュの自己認知の歪みと自己を過大評価する癖は彼の近くにいる人間であればあるほど脅威だったことでしょう。

ル・グリの真実

強姦魔による自己弁護に他なりません。何が怖いって、事実であるかのように聞こえてくるのが怖いです。ル・グリにとっては出会うタイミングを間違えただけで一目ぼれしあった美女(マルグリット)との密事というのが「真実」だったわけです。

そんな「真実」の中ですら「NO」と言われているのに、「それは淑女だから、礼節のために一度拒否をするふりをしたんだ」とかなんとか意味の分からない弁解をします。あくまで強姦ではなく合意のうえだと言いたい(思いたい)ようですが、このへんは現代の日本人男性にも通じるものがあると思いました。女性が「NO」といったら「NO」でしかないんです。「え、でもAVだと男優はこうやって…女優はイイって言ってて…」と続けるのは童貞か下手くそだけです。
つまり、ル・グリも下手くそ(強引)。

いくら美形で書類に強くてラテン語も読めてお偉いさんから気に入られていたとしても、事実をゆがめてきちんとモノを見られない人は危険でしかありません。ストーカーや強姦魔の思考と言動の基本をよく表しているなと感じたキャラクターでした。

マルグリットの真実

彼女の視点が一番「事実」に「近い」ものだというのは言うまでもないでしょう。ただ、「真実」であることに変わりはないので、個人としてはどこかで歪みがあるのだというのが意見です。

そもそもが野蛮で地位と名誉と褒章しか頭にない男にしかたなく嫁がされ、寝室では夫から合法的強姦を受け続け、妻として大切にされるどころか子産みマシーンとしか思われていない…そんな中で少しでも一族が不利にならないように思考を巡らしたり、領土の改善に努めようとしている姿は健気に写ります。
時代的には賢すぎて、目立ちすぎたと思います。早すぎる存在だったのでしょう。

ただ、彼女が良かれと思って行っていた「外交的な言動」や貴族でありながら友人を信じてとってしまった「女性的な言動」が思い切り不利に働いたなぁと感じました。
「いい印象を抱いていなくても、相手には微笑んでおくに越したことはない」といってほほ笑んだシーンなんて、男性が行えばただ友好的な表情としてとられるだけなのに、女性が行うと誘惑している挑発的な表情だと捉えられてしまうなんて恐ろしすぎました。

さいごに

今回はそれぞれの「真実」を観ながら抱いた感想を書き連ねました。次回は第2回として「女性の敵は男性、大敵は女性」のお話をします。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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