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映画『チタン』に表れる「家族」

ごきげんよう。雨宮はなです。
前回は「チタン」についての投稿でした。
今回は第四回「家族」についてです。

※この記事は映画『チタン』公式による「完全解析ページ」を閲覧せずに書いたものです。
※ここから先はネタバレを含みますので、ご了承いただける方のみ読み進めてください。
※残虐なシーンや性的な描写について扱っています。苦手な人はご遠慮ください。

健全な家庭環境?

機能不全家族という言葉が依然と比べて浸透するようになった最近ですが、私には主人公の元の家族がまさしく機能不全家族に見えました。

機能不全家族とは、「子育て」「団欒」「地域との関わり」といった、一般的に家庭に存在すべきとされる機能が、健全に機能していない家庭の問題を指す。(中略)機能不全家族となる要因としては、家族構成員のアルコール依存虐待(子供への暴言や威圧的態度も含まれる)、共依存などが挙げられる。

Wikipedia「機能不全家族」

父親は医者でしっかり稼いでいて立派な家に住んでいて、母親はスキンシップをとってくれる。そんな両親が運営するのが機能不全家族?アルコール依存も目立った虐待もないのに?

それではなぜ、主人公は冒頭シーンで父親に試し行動をする必要があったのでしょうか?車の中で騒いだり、座席を蹴飛ばしたり、シートベルトを外したり…。さらに、同じ車内に母親がいないのはなぜでしょうか。
父親は主人公のことを「コントロール不能なくせに自分に責任がつきまとう同居人」程度にしか認識しておらず、母親にいたっては「アクセサリー、ペット」感覚なのではと思えました。

母親は病院に駆けつけて主人公の姿に心を痛めた様子を見せたり、大人になった主人公にスキンシップをしますがあまり主人公の考えや気持ちを踏まえた行動はとっていないように見えます。

父親に診せるということ

主人公が妊娠による体調不良を起こし始め、母親のすすめで父親に自分を診てもらうシーンがあります。父親は明らかに面倒くさそうで、持て余していて、さっさと診察を済ませようという考えが見え見えの会話が繰り広げられます。

診察の間、父親は親らしい心配をみせたり声をかけたりはしません。あくまでひとりの患者として接します。それはつまり、ひとりの女性として認識することと同義ではないかと私は考えました。
父親に女性として認識されたことに気づき危機感を覚えた主人公が逃げた、もしくは、父親を求めて旅に出たという考え方もできるのではないでしょうか。

家族を家族たらしめるもの

生活を共にする一番最初に身を置く社会を「家族」と呼び、仕事仲間や同じ志を抱いた仲間を「ファミリー」なんて呼ぶこともあります。
主人公はひょんなことからヴァンサンと出会い、仕事と生活を共にします。公私共に「家族」と呼べる環境にありますが、”それだけでは「家族」とは言えないんだぞ”というメッセージを含んでいると私は感じました。

必要なタイミングでしか部屋から出ない主人公、「話したくなるまで待つさ」と言いつつも一日程度しか我慢の利かないヴァンサン、どちらも「家族」への接し方とは言い難いです。
最終的にふたりは「家族」になったと私は思うのですが、二人を「家族」にしたものは何だったのか。

それは、互いの”弱点の許容”だったのではないでしょうか。ヴァンサンの弱点は息子と若さへの執着、主人公の弱点は妊娠と殺人の隠匿となりすまし。何よりお互いに「家族」との不和や問題がありました。
また、弱点の数や程度はあまり重要ではなく、自分が弱点だと認識しているものを相手も同じように認識したうえで受け入れることが重要なのだと思います。

仕事と生活を共にしていくうちに段々お互いを受け入れるようになりますが、「家族」になったのはやはり出産シーンでしょう。あのシーンには二人の弱点が凝縮して詰め込まれていました。

◆子供(若さと時間経過の象徴)を取り上げること
◆自分の中にあるものを出す(認識し、痛みに耐える)こと
◆殺人の反対(出産)をしているようで、自分を殺していること

あの「人間ではないもの(主人公の性/価値観を受け継いだもの)」を「出す」ことと「受け取る」ことで彼らは「家族」になったのだと思います。

さいごに

家族の認識って時代や国によって様々で、いっせいに認識が統一・納得されるものではないからこそ個人の価値観が強く反映される部分だと思います。生活や慣習に根付いた認識によるものは変化を疑われないこともしばしば。
現代では、その認識に合意できる相手こそ「家族」として受け入れられるのかもしれません。

これで予定していた『チタン』であれこれ考えるシリーズは終了です。またふと思い出したり、再度劇場で鑑賞して気づいたり感じたりしたら、記事が増えるかもしれません。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。

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