気仙沼ニッティングのマーケティングが凄かったって話

数年前に登録したっきり放置していた、Schooという生放送学習サイトに最近ハマりかけている。リバイバルってやつだ。

そこで先日マーケティングについての生放送があり、これからの活動のヒントになればいいなと思って視聴してみたら、個人的にかなり勉強になったので記録しておきたいと思う。

ブームになったブランドや、一般的に「成功した」と見られるビジネスはどのようなマーケティング戦略を取っていたのか、実際に経営者の体験談を聞きながらそのエッセンスを探し出そう、という趣旨の放送だった。
その日の放送の話し手は「気仙沼ニッティング」の代表・御手洗瑞子さん。

気仙沼ニッティングとは

宮城県気仙沼市で生産される、手編みニットのブランドである。
1着15万円と衣服にしては高額ながら、熟練した職人の手によるオーダーメイドの上質なニットは注文から2年待ちという大人気ぶりである。

人は誇りのために働く

いきなり大きな話になるが、人間はなんのために働くのだろうか?

もちろん、人によって答えが分かれる類の問いであることは分かっている。
わたしなんかは「いろんな趣味にチャレンジするための資金に困らないように」なんて理由がパッと出てくる。
(この辺は太陽双子座1ハウス、北半球に惑星が集まっているネイタルホロスコープを持つ人間っぽさがよく出ている部分だなと思う)

御手洗さんは「働いて社会に貢献することで、自らの誇りを養うため」との答えだった。

実は気仙沼ニッティングの誕生と、商品コンセプトの確立にはこの「誇り」というワードがかなり重要な位置を占めているのだ。

気仙沼は2011年に起こった東日本大震災により甚大な被害を受けた地域のひとつ。復興支援として、世界中からたくさんの物資や資金が集まった。

支援は大きなマイナスをゼロに近づけることはできる。しかし、それだけでは産業は育たない。
そして復興需要もいつかは終わる。終わった後も地域で人は生き続ける。その人たちが「働くことで誇りを得る」ためには、成長する産業がそこになければ貢献すべき社会との繋がりは得られない。

そこで初期投資が少なさや、大きな設備を建てられない事情を考慮した結果思いついたのが「手編みニット」であった。
ちょうど気仙沼には手編みの文化の下地があることが分かり、編み手を集めやすい環境にあったのも大きかった。

高額な値段に見合ったサービスを手編みの価値を最大化することで提供する

これまでの話から、人間が働いて誇りを得るのに必要なものとして「成長する産業」「社会への貢献」があることが考えられるが、その他にも大事なものがある。

働いた分の対価、お給料である。

いくら社会にめちゃくちゃ役立っていますよ〜と言ったって、それに見合った対価が無いまま働かされ続けると、人間はおのれの社会への貢献を疑い始める。当たり前のことだ。

ただおそらく、わたしも含めて、自分で大小を問わず何かしらのビジネスをやったことのある人はここを軽視しがちではなかろうかと思う。

しかも気仙沼ニッティングは時間のかかる手編みだ(編み手さんは50〜60時間くらいかけてるというお話でした)。

そこで御手洗さんが商品について最初に決めたのは価格である。第1号商品は15万円、近年安価なファストファッションが流行していることを考えると、洋服としてはかなり高額であると言わざるを得ない。

この値段を「いや〜手編みって時間かかるし難しいんで、編み手の給料を考えるとこんなもんになっちゃうんっすよね〜」と言うだけでは当然顧客は納得しない。

値段相応の価値を受け取ってもらうために考えたのが、
手編みの価値ってなんだ?と言うこと。

もちろん素材などにもこだわり、しっかりとした品質管理を敢行することで上質な物を作っている。
しかし、気仙沼ニットの一番の特徴である「手編み」の価値を最大化するには、「手編みのセーターをもらうとどういう嬉しいことがあるだろう?」ということを考えなければならない。

「誰かが自分だけのために、ひと針ひと針丁寧に編んでくれていることを想像できるところ」がそのひとつである。
そこで、オーダーメイドというスタイルが確立され、編み始める前に編み手からの挨拶メール、定期的な進捗メールを送るサービスが生まれた。

顧客と編み手、コミュニケーションによって生まれるもの

気仙沼ニッティングはオンラインストアの他、実店舗もある。
そこで顧客と編み手がコミュニケーションを取りながら商品を決めたり、採寸したりしているのだが、実際に顔を合わせることでお互いにいい面があるのだそうだ。

顧客側は、実際に商品を制作している場面も見せてもらえるらしい。編み手とも顔を合わせてコミュニケーションが取れる。これによって「手編みの価値」をさらに深く感じることができる。

編み手はただ納品するだけよりも、よりリアルに「誰のためにやっているのか」を実感することができる。これは社会に貢献する実感とも言え、上で話した「働くことで得られる誇り」を育てる結果に繋がる。

そして御手洗さんも店舗に立つことがあるのだとか。
会話の中で発見できることもあれば、売上などの数字からは分からない売上未満の顧客の興味を知ることができる。これが次の商品開発のヒントにもなるのだ。

今の自分に必要な物は何か、を考える

なんか書いていたら長くなってしまった。本当はもっとたくさんの学びのあった講義なので、また機会があれば紹介したい。

最後に、御手洗さんがお客さんから学んだこととして話されていたことを紹介する。
その方は家の中にあるいらないものをメルカリで売って、その売上がニットの分だけ貯まったので、こう言って注文してきてくれたそうだ。
「部屋にあったいらないものたちが、このニットに変わったんです。」

自分の身の回りにあるものの中で必要なもの・必要でないものを吟味して、必要でなくなったものを手放すことで、新たなものを手に入れることができる。

自分にとって価値のあるものが得られる安くはない買い物だからこそ、必要か必要じゃないかをしっかり考えることができたんだろうなと思う。

わたしにとって必要なもの、必要でないものはなんだろう?
今手に取ろうとしているものは、本当にわたしにとって価値のあるものなんだろうか?
このお話を聞いて、そんなことを考えたのでした。

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