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鼻の穴上陸作戦

 2023年3月20日

 最近,花粉症がかなりひどい.普通に暮らす分には,鼻声で支障はないけれど,コントをする上では,かなり影響が出るため,何とかしなければと思っている.家ではずっと,鼻の穴にティッシュを詰めている.ふがふが鳴る.

 花粉ってやつにゃあ,どうにもこうにも強いもので,歴史を遡ると,敗走に次ぐ敗走,負けっぱなしの僕である.目に見えないけれど,顕微鏡で拡大した奴の姿をテレビでよく見かける.小さいくせして,恐ろしくとげとげしている.親の仇かってぐらいとげとげしている.やりすぎだと思う.そりゃあ,あんなものが鼻の中に入ったら,身体はびびるだろう.正常の反応だ.北斗の拳に出てくる敵が振り回す鉄球みたいな花粉,それを大量に飛ばすスギを筆頭とした植物.勝てるビジョンが見えない.絶望の運び屋,スギ.


 しかしながら,僕の鼻自体も弱いのにも問題がある.

 アレルギー性鼻炎が一年を通して,波はあるものの酷い.気温の変化や空気の乾燥に敏感で,突如として鼻水が止まらなくなる.最終的に水のようになる.頬を伝う涙のようにすぅーっと流れる鼻水に腹が立ってくる.授業中もお出かけ中も突然ひどくなる.ゲリラ豪雨.バックにいつも箱ティッシュを入れていた.一度,ディズニーランドに行った時,持ち物検査でカバンの中身を見せた時,猫が描かれた箱ティッシュをキャストさんが見て,「かわいらしいティッシュですね」と言われた.

 鼻の穴にティッシュを詰める,通称鼻の穴上陸作戦は,ティッシュの消費量を減らすというメリットがある.箱を持っているとはいえ,残基には限りがあるので,なるべく無駄死にはしたくない.ティッシュの端から端まで,余すところなく使うようにはしているが,ゲリラ豪雨だと,一度鼻をかむ程度では,もって二,三分しかもたない.そんな時,鼻の穴上陸作戦を実行する.だがしかし,これにもデメリットがある.すごく恥ずかしい.鼻血を止めるティッシュは格好いいのに,何故か鼻水を止めるティッシュは格好悪い.中学生の時なんて,是が非でも恥をかきたくなかった.

 だから,数回ほど,赤いマッキーでティッシュを塗ってから,詰めたことがある.しかし,鼻の中に入るマッキーの成分は,果たして体に何も影響はないのだろうかとすごく心配になり,止めた.


 中学二年生の頃,いい方法を思いついた.マスクをつければいい.マスクの下であれば,誰にも気づかれない.それ以降,ほぼ毎日,マスクを着けていた.ステルス鼻の穴上陸作戦.

 時折,あれなんか鼻膨らんでない?といやに勘が鋭いクラスメイトなどもいたが,特段,問題は起こらなかった.平穏な日々が続いた.そんな時だった.僕は学級委員だったので,帰りの会にて,何か業務連絡をしなければいけなくなった.その際,なぜだかマスクを外して,話してしまった.ステルス解除!僕の迂闊さ.僕の鼻ティッシュもさぞかしびっくりしたに違いない.突如として,視界にこちらを見つめる目が広がり,遅れてざわめき声が広がっていくのだから.

 いつのまにか当たり前になるって良くない.そう思った.


 また,中学や高校の時,人よりも鼻の穴が大きいのが嫌だった.鼻の穴が縦に広がりますようにと願って,鼻の頭を上へつまんで引っ張っていた.鼻を高くしたかった.小学生の時は,洗濯ばさみで鼻を挟んで過ごしていた時期もあった.うーんうーんと鏡の前で悩む.鼻をぐりぐりこねてみる.僕の鼻の先端には何故だか骨がない.重力に負けて横へへたり込んでいる鼻.自意識が強い時期では,鼻は僕の劣等感の象徴だった.口をにょいっと横に伸ばすと,人よりも鼻の穴がガバーッと伸びるので,写真で笑顔を作るのが苦手だった.

 親に,何故僕の鼻の頭には骨が無いの,こんな鼻は嫌だと詰め寄ったこともある.すると,親は,

「あなたの鼻の頭の骨は,あなたのくるぶしの骨にいっちゃったの,ほら,自分のくるぶしを触ってごらん,ボコっとしているでしょう,それ」

と返された.あの時,僕は未熟で,すでに起こったことに文句を言ったってどうにもならない.親には申し訳ないと思っている.しかし,あの時返ってきた言葉は,未だに意味は分からない.でも,なぜだか切ない気もして,僕は人よりもくるぶしに骨が多いと信じてはいる.ちなみに,整形外科で足のレントゲンを撮った時,かかとの骨に大きな空洞が空いていると言われたが,ただ害はないらしい.

 ある日,長年の鼻の穴上陸作戦のせいで,鼻の穴がどんどん広がっているのではないかと気づいた.膝から崩れ落ちた.

 まあ,気づいたからといって,どうにもならないため,開き直って鼻にティッシュを詰める日々は続いている.鼻の穴上陸作戦続行.


 花粉の時期になると,孤軍奮闘の日々を思いだす.




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