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始まりの空気

 2023年3月22日

 ここ数日,三人で既存ネタを二分用にする修正に勤しんでいた.三人とはいえ,僕と柿田さんは新井さんのアイデアを聞いて,それに対して何か意見を言ったり,新井さんに言ってみてと言われた台詞を言うだけなので,ほとんど新井さんが修正しているようなものだった.

 なので,こちらとしては,新井さんがやりたいことを再現できるように,演技の指示を100%こなせるように,準備に徹するのみであった.このように書いてみたけれど,別に今回に限らず,いつもこのような感じでネタ合わせは進む.

 昨日も,柿田さんは用事があったので途中で抜けたが,夜に新井さんと二人で,新宿中央公園で動きながら,ネタの修正などをした.公園では,桜の木がライトアップされていて,お花見をしている人がたくさんいた.いつも以上に騒がしい夜だったけれど,楽しい感情が空気に溶けていた.気温も暖かくて,ネタ合わせしやすかった.

 そこから,二人で小道具を買いに新大久保駅方面にあるドン・キホーテへ向かった.相変わらず人の流れは続いている.新大久保駅へ近づくにつれて,韓国料理店が増えていく.増す異国感.新井さんが終始,ホルモンが食べたいと言っていた.もつ鍋も好きらしい.確か,養成所の時,12月の養成所ライブでトリを務めて,僕が失敗して舞台袖で大号泣した帰り道も,もつ鍋を食べた記憶がある.

 ドン・キホーテで靴を二足買った.よし買おうとしたところ,新井さんの財布がなかった.緊迫感が漂い始める.もし公園に置いてきていたのなら,取りに帰っても往復一時間はかかる.二十二時を回っており,新井さんが家へ帰ってから再びネタを作ると言っていたので,あまり無駄な時間は過ごせない.そもそも,新宿で財布を落として,無事で帰ってくる可能性は低い.やばいやばい.僕はお金がないので,一旦小道具を買うこともできない.

 ふと横の靴箱の山を見ると,その上に財布が乗っていた.あ!と僕が言うと,新井さんはそれに気づいた.新井さんの財布だった.新井さんらしからぬミス.相当疲れてるわと新井さんも言っていた.ちなみに僕は,新宿で財布を落として,探しに行ったが見つからず,その帰り道にPASMOを落としたことがある.

 結局買った小道具である靴を使うネタは,ボツになった.ただ,いつかやりたいと三人で話している.


 ここ最近は,与太話に花を咲かせる余裕もなかったので,珍しい出来事などもなく,上のようなことぐらいしか書けるものがなかったが,一応,この数日で,ラ・ママ新人コント大会に準一本ネタで出させてもらうことと,もう一個すごく嬉しいことが決まった.後者はいずれ発表なり,告知なりをすると思う.

 僕は,バナナマンさんがきっかけでお笑いの道へ進み始めたので,そう意味で,ラ・ママ新人コント大会に出られることに,すごく特別な感情を抱く.今回で二回目であるが,ありがたいことに両方とも準一本ネタとして出させていただいている.新井さんも柿田さんもすごく喜んでいた.


 最近は,すごく真面目なことを考えてしまう.多分,街中で卒業袴やスーツの人を多く見かけるからだと思う.僕は今年で大学四年生だが,休学を挟んでいるので,周囲はみな大学院への進学や企業への就職など旅立っていく.そういう出発の空気みたいなものは,目に見えないけれど漂っている気がする.新しいものの匂い.それを嗅ぐたびに,色々なことを思い出す.

 今週の金曜日に,大学の卒業式があるらしい.僕は夜,ライブがある.来年の卒業式をお笑いライブで欠席,ちょっと格好いいかなと思ったけれど,もうそう考えている時点,格好悪いなと思った.自分でも格好悪いと思っているのに,なぜ格好いいかなとか考えてしまうのか不思議である.

 高校生の時,卒業式を迎えても,何にも感慨深くなかった.ずっと地続きで,区切りや境界のようなものを感じなかった.強がりではなく,本当に何も感情が湧かなかった.でも,その後に一度学校を訪れないといけなくなって,校舎に入った.そして,教室の中を見た.誰もいない教室に並ぶ机と椅子.貼られた跡がある掲示板.大きな窓から見える中庭.その時,急速に卒業を感じた.ドラマや音楽にあるベタなお涙ちょうだい的なくさい感動を馬鹿にしていた僕だったけれど,本当に何かを失ったような手に入れたような終わったような始まったような複雑だけれど,ベタな感動を抱いた.僕の言語能力では表現できないのが悔しい.とにかく,あの瞬間に先人が言っていた卒業というものを認識した.


 こんな感じの中身があるようで,あまり無い,でも思うところはある,そんな日々だった.あと,もしいつか単独ライブをするとしたら,タイトル名にバイオロジーという単語を使いたい.井の頭公園を散歩していて,思いついた.

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