見出し画像

ギャルのプロ意識に感動した話

(この記事にはいわゆる下半身の話と文字通り下半身の話、両方が含まれています。苦手な方はご注意ください)


いや~原稿が進まねえ~(笑)。

全然笑えないのに笑っちゃうもん。思い入れの強い仕事ほど手が動かなくなる病気ってあるんでしょうか? ありますよねきっと。たぶん慢性的にそれです、わたし。

全然進まないのにずっとPCと向き合ってると、平成の未解決事件とか歴代元カレのイマとか碌でもないことばっか調べそうになっちゃうので、別のこと書きますね。ホント編集さんごめんなさい。一応徹夜して努力はするんで許してください。

タイトルは「ギャルのプロ意識に感動した話」。


ずっと心に残っている記憶なんですが、もう5年くらい前のクリスマス前、12月22日のことだったと思います。

当時わたしには遠距離恋愛してる彼氏がいて、クリスマスに久しぶりに会える約束をしてたんですよね。しかも勤めていた会社は23日の天皇誕生日から年末休暇に入るので、当日は2人の時間を思う存分楽しめることになっていました。

それでわたしは思ったんです。やるしかないと。陰部の完全脱毛を。

以下、けっこうどうでもいい情報ですが、まあ普段からわたしは肌が弱かったり自転車を乗り回したりしてることもあって、定期的に毛の処理をしてるんですけど、剃ったところで2日、3日経つとプツプツ生えてくるんですよね。それが地味にダルくて。

そういった雑念から解き放たれて、久しぶりに会える彼氏とのセックスに思う存分耽溺するには、毛根から処理してツルッツルにしたいなと。そう、思ったわけです。

毛根から抜いちゃえば10日くらいは生えてこないんでね!

んで勤務中にいろいろ調べた上で見つけたのが、ブラジリアンワックスでした。

ブラジリアンワックスというのは、セックス・アンド・ザ・シティという海外ドラマで主人公の女性が施術を受けたことで有名になった脱毛法で、メチャクチャ痛いことで知られています。

どうしてそれに注目したかいうと、(当時の話なので今とは状況が変化してると思います)

・レーザー脱毛は毛の長さと太さと量がそこそこある状態でないと施術できないっぽかった

・レーザー脱毛はヤケド・肌荒れのリスクがあったり、施術後すぐの性交渉が禁止されていた

・ブラジリアンワックスは圧倒的に安かった(レーザー脱毛10,000円超、ブラジリアンワックスは確か4,000円くらい)


そういった理由で、しかし痛いということでかなり緊張しながら予約することにしたのですがやっぱり世の中の女性みんな考えることは一緒と見えて、どこのサロンも全然空いてねぇ。こっちも年末の忘年会シーズンで時間がねぇ。23日になったら彼氏が来ちまう。困ったぞ。

勤務中に血眼で探し、ようやく見つけたのは仕事納めの22日、新宿で22時30分からのコースでした。会社の忘年会終わりにギリギリ駆けこめるかなー……っていう時間帯です。ていうか、22時30分からのコースがあるんですね。すごくないですか。


そして当日。当時の勤務先は、もう本当にここだけは(いや、ここ以外もいいとこはありましたよと予防線を張る)最高な会社だったのですが、飲み会が毎回ありえんくらい豪華なんですよね。ありがたかった。赤坂で美味い酒と美味い飯をたらふく食らい、そして解散したのが22時30分。

いや、フツーにブラジリアンワックス間に合わんがな。電話をかけ、23時には到着します! と伝えると、ものそいダルそうな声が返ってきました。

「えェ……じゃあ~コース内容全部はできないですけどォ……」

「あ、はい、大丈夫です、すみません!」

新宿に到着したのが23時。そこからサロンのある雑居ビルを探すのに手間取り、到着したのが23時15分のこと。迎えてくれたのはニコリともしない小柄な、当時のわたしよりも若いであろうギャル店員さんでした。

わたしが名乗りもしないうちにギャルは言います。

「もう時間ないんで、今回はV とI しかできないです。いいすか?」

女性読者はおわかりだと思うんですが、いちおう男性読者のためにご説明すると、女性の陰部の毛は一般的に「VIO ライン」と呼ばれています。V は下腹部、I は股間、O は尻穴の周りの毛を指します。オシャレですね♩

その言葉を聞いて、ケツの周りの毛だけが残された己の姿を一瞬想像して哀しい気持ちになったのですが、悪いのはすべて45分も遅刻した自分です。むしろ大変なのはV とI の方なので、かなりの温情をかけてくれたに違いありません。

「はい、大丈夫です、よろしくお願いします」

ハッキリ答えて部屋へと案内されました。

ぶっちゃけかなり汚い雑居ビルの小さな一室だったので怖かったのですが、施術室はとても清潔で、いい匂いもしました。下半身だけすっぽんぽんになってしばらく待っていると、さっきのギャルが妙にイキイキした様子で入ってきました。

「このベッドに横になってくださ~い」

ここから先の施術内容については詳しくは触れません。これを書き始めて1時間が過ぎ、ほったらかしたままの原稿がさすがに不安になってきたからです。しかし、人間の尊厳を揺るがしかねない恥ずかしい恰好を長時間取り続けねばならないこと、感じる痛みは思った以上でも以下でもないこと、臀部はしゅごいトゥルトゥルのフワフワになること、けっこうおもしろい経験であったことを記載しておきます。総合的に言うと、オススメです。興味のある方はぜひ一度調べて、行ってみてはいかがでしょうか。

ギャルの手捌きは迷いがなく、素早く、そして鮮やかでした。そして案外親しげに話しかけてくるのです。

「おねえさんブラジリアン初めてですかァ~?」

「そうなんですよ……だから緊張してて……」

「けっこう痛いって言われて泣いちゃうお客さんとかいますけど、大丈夫ですかァ~?」

「アハハ……そうなんですね……確かにかなり、イッ!!! 痛いですね……」

いやあこっちは赤子の頃にオムツ取り換えてもらったとき以来くらいの恰好してて、しかも不意のタイミングで激痛が走るんですけど、と思いながら、ついつい会話を楽しんでしまいます。

「おねえさん、なんのお仕事されてるんですかァ」

「あ~、ITの営業やってます……」

「え~すご~い、難しそうっすねェ~」

「いヤッ!!! ぜんぜん難しくないですよ……」

ここでふと、興味を感じたわたしは逆に問いかけてみました。

「おねえさんは、どうしてこのお仕事されてるんですか?」

するとギャルは言うのです。

「もともとネイリストだったんすけどォ、友達がこの仕事やってて楽しそうだったんですよねェ~。それで修行してこっちの仕事始めました」

「どんなときが楽しいですか?」

「やっぱお客さんの肌がキレイになってくと楽しいっすねェ~。VIO も、毛深くて太ももやお尻の裏まで毛が生えてて悩んでる人ってわりと多いんすけど、そういうのもちゃんとキレイにしてあげられるんで。大変すけど」

ギャルすげえ。わたしはちょっと感動したんです。「楽しそう」と思うことって、人によって本当にいろいろだなと思いました。勝手な偏見ですけどギャルって美意識が高そうだから、ネイリストとか脱毛サロンとか、そういう職業に関心を持つんだろうか? 

そして一方で、ITの営業やってて何が楽しいですか? ともし訊かれていたら果たして即答できただろうかと自問しました。


自問自答の沼に沈んでいかんとするわたしに、ギャルが声をかけます。

「おねえさん、毛が薄くて思ったより早く終わるんで、O もやっちゃいますね~」

「え!?いいんですか。ありがとうございます……」


なんとギャルは、45分も遅刻して参上したわたしの陰部の処理を完璧に終わらせてくれたのでした。

お会計は最初に提示された金額通り。お土産に保湿ケア用品までもらって、笑顔で送り出してもらう頃には24時を過ぎていたと思います。もう彼女以外のスタッフも、誰も残っていませんでした。


帰り道、わたしはしみじみ考えました。

明らかにクリスマスセックスのために来た浮かれポンチの新規客。明らかに酔った姿で閉店間際に45分も遅刻して現れて、わたしなら絶対担当したくない。Twitterに晒されても文句言えない、いわゆる”クソ客”です。

最初に「V とI しかできません」と伝えて客が了承してるんだから、もし想定より早く終わったとしても何食わぬ顔で所定の金額を受け取ればいいと思いませんか。しかも実際は閉店時間をオーバーしていたわけです。彼女がわたしのケツ毛を処理してくれたのは、完全にサービスなんです。

あのギャル、すげえなあ。


この話を知人にしたら、こんな感想が返ってきました。

「プロとして、O だけ残すのに悔いがあったんじゃないかな」


客が予約したコース内容を全うする、コース内容で定められた範囲の身体をキレイにするというプロ意識が、彼女にはあった。職業人としての鑑だなと思いました。原稿ほっぽり出してこれ書いてる自分とは雲泥の差ですホントに。ああなんか泣けてきたなー。

”プロフェッショナリズム”って、どうしても目立ってたり華やかだったりするところで語られがちですけど、若くて今ドキで新宿の片隅で営業してる小さなサロンで働くギャルの女の子にも確かにある精神なんだということを、ずっと記憶に残しておこうと思ったんでした。


--  --  --  

こっから先は蛇足ですが、わたしは美意識が極度に欠けた女性だもんで、特にこういった職業についている女性のそれに著しく興奮を覚えます。

・まつエクで【90分つけ放題!~最低120本保証~】みたいなコース、あるじゃないですか。あれって大抵120本のコースと値段がほとんど一緒だったりするし、120本つければ客も満足するしええやんって思うんですけど、いつも「150本つけられました~☆」とか言ってくれるじゃないですか。なんでがんばってくれたんだろう、すげえ偉い とか思いますね。

・コスメカウンターに行って何かを試すとき、それがたとえルージュだろうとアイシャドウだろうと、大抵の場合まず美容部員さんの手によって目の下のクマをコンシーラーで消されます。あるいはファンデーションごと塗り直される。「テメエの半端なベースメイクじゃ、ウチの商品本来の魅力が発揮されねえんだよ!」ってことだと思うんですが、そういうのも、シビれますね。好きにして……今顔に塗ってくれたやつ全部くだしゃい……ってなりますね。

--  --  --  

はい、きっちり2時間経過。わたしもなけなしのプロフェッショナリズムを発揮して仕事に戻ります。


オレはどうしようもない人間だけど、文章を読んでくれる人がいるから生きていられます。もし、サポートしてもらえたら、きっと寿命を延ばすために使います。重いってか?これがオレだよ!