ただそこに広がる海を漂い、流れ、流される。

私はその終着点、砂浜と波打ち際をコンクリートの防波堤に座り、時間を忘れるようにじっと眺めていた。

海の色は綺麗に深く垂れこめ、風に吹かれて形を変える雲の鼠色を飲み込んでいる。

波は、私の視界の中では同じ形を一度も見せることなく、貝殻や砂を運び、再び私の知り得ぬ水底へと戻って行く。

私もこの波に引きずり込まれ、ゆっくりと身を委ね、底にたどり着きたい。

そんな欲望が目の前の波のように寄せては返す事を繰り返している。

私の上半身はそのリズムに合わせてゆっくりと無意識に前後に揺れて、水底に落ちて行く予行練習を繰り返していた。

座ることに飽きた私は予行練習を止めると、砂浜へと歩く。

海から吐息のように流れ込む生ぬるくも一抹の不安をどこからともなく呼び寄せる7月の潮風に逆らいながら白い砂に沈もうとする足を交互に下手なステップを踏みながら波打ち際まで来た。

私の目の前に、朽ち果てた流木が辛うじてその姿をとどめようとしているのか、私にはこれ以上流されまいとする最後の抵抗のようにも感じ取られた。

同じく漂流して、そこで一生を終えるフジツボの群れもまたこの流木が海流に飲まれ続け、この海の一部になる瞬間まで時間を共にするのだろう。

もしも、海流に自らの意思があるならば。
私は流されるまま何処へ行くのだろう。
横たわる流木のように流れ着いて、このまま終わるのだろうか。

それとも、私の意思で流れに逆らい、飲み込まれ、一閃の光さえ突き刺さる事を拒む黒と青だけの世界へ連れていかれるのだろうか。

しかし、波は無言のままに不規則で、でも、規則正しく潮の満ち干きを繰り返す。

もしも、海流に意思があるならば。
私もこのまま砂浜に埋まろうか。

流木になり、朽ち果てようか。
それが、私の意思なのだろう。

そして私の視界と意識は流木になり、波に飲まれた。