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もしかしたら見ていないかもしれない夢の話

 夢を見て、目覚めた直後は思い出せたのだ。ここでこうして、それからああなって……と、まだ眠い頭のなか、今にも消えそうな夢の景色を思い返しながらブツブツ呟く。久しぶりの夢日記のネタだ。しっかり記憶に焼き付けておこうと、何度も繰り返し呟いた。
 ところが、やがて頭が冴えてくると、とたんになにも思い出せなくなってしまう。ついさっきまで繰り返し呟いた内容が、単語の一つも出てこない。夢を見たという感触だけ残して、頭のなかから綺麗さっぱり消え去ってしまった。面白げな夢だったのに惜しかった……。

 ……と、いうことを、年が明けた頃から何度も繰り返している。
 昨年末に多忙のため夢を見るどころではなかった時期があったので、その間に夢を覚えておくコツを忘れてしまったのだろうと思っていた。
 しかしどうも変だ。あまりにも同じパターンが続きすぎている。毎度同じように夢の内容をブツブツ呟き、何回繰り返しても毎度すっきり何一つ思い出せないって、ちょっとおかしい。
 どうやらこれは、そういう夢を見ているのではないか。つまり、面白げな夢を見たが忘れてしまったという夢を、何度も見ているのだ。
 面白げな夢などはおそらくそもそも見ていない、設定だけの存在だろう。目覚めたときには思い出せたというのもやはりまだ夢のなか、そんな気になっていただけのことで、実際にはなにも思い浮びもしなかったのではないか。その後、本当に目覚めたときには当然ながらなにも思い出せず、忘れてしまったと錯覚した……。
 こんな夢を何度も見て、そのうえ現実と思い込んでいたなんて、なんだかメンタル的によくなさそう。夢に執着するあまりよく眠れていないのかもしれない。しばらく夢日記のことは忘れておこうかな、と思ったのだが。
 ……本当に何度も見たのか? これも夢のなかでそういう設定だっただけという可能性はないだろうか。
 前にこの夢を見たのはいつだっけ。あいにく夢日記には記録していない。現実の出来事だと思っていたからだ。頭のなかを探ると、今度こそ覚えていようと何度も夢の内容を繰り返し呟いたこと、にも関わらずまた忘れてしまってがっかりしたこと、そんなことがあったと記憶には残っているものの。
 どうも雲行きがあやしくなってきたので、こうして日記に残しておくことにしました。夢見の悪いときは人に聞かせろという話もありますし。

見出し画像 : 鳥山石燕 画『百鬼夜行拾遺 3巻』[1],長野屋勘吉,文化2 [1805]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2551539 (参照 2024-03-26)


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