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2023年5月18日の夢 シーツ自動巻き上げマシーン

 夢のなかで、いつもの学校にいる。これまで何度も夢に出てきた母校という設定の場所なのだが、現実の母校とはあまり似ていないうえに、来るたびに建物の構造が違っている。つまり、現実には母校でもなんでもない場所なのだが、それにしても、今回はあまりにも様相が変わり過ぎていた。
 なにやらモダンなグレートーンで統一された廊下を歩いている。ロビーの壁は一面が全面ミラーガラスの窓になっていた。廊下沿いに並ぶ部屋には、ソファが向かい合った応接室もあれば、ホワイトボートと長机が置かれた会議室もある。ところどころにコピー機や観葉植物なども配置されている。
 今思えばこれはオフィスビルだ。しかし夢のなかの私は学校に来たつもりでいるし、夢を見ている私もいつもの学校だと思っている。
 廊下をずっと歩いているが、教室が見つからない。オフィスビルらしく事務机や整理棚の置かれた部屋はいくつも通り過ぎたが、黒板に勉強机の並ぶ部屋などはいっこうに現れない。だんだん不安になってくる。
 待合室に置くような横長のソファと低い机が、前向きにそろえて何列も並べられた部屋があった。椅子と机が等間隔に整列しているさまが、教室風と強弁できないこともないような気がした。なんとなくそこへ入っていくと、そこで正解だったらしく、夢のなかの私が席についた。
 教室には私ともう一人しかいない。生徒の大半はなにかの試験だか検査だかでどこかに出掛けていて、教師もその付き添いで行ってしまった。一緒に教室に残っているもう一人の子は、クラスのなかではわりあい話すほうの子という設定。この夢かぎりの設定とはいえ、親しい子が一緒でよかった。
 この時間、教室残留組は自習ということになっている。しかし、教室があまりにも暗い。この教室も壁の一面は全面ミラーガラスの窓になっているのだが、外に工事用の足場があって外光がほとんど入らない。天井の照明は節電のためかまばらにしか点灯せず、光量が足りていない。
 しかも、工事の音がすぐそばでひっきりなしに鳴っている。なにか金属をこするような音や、硬いものを叩きつけるような音が、ガンガン響く。こんなところで机に向かっていては体に悪そうだ。
 場所を移ろうかと迷っていたところ、もう一人の子も同じことを考えたらしく、読んでいた本を閉じてこちらを向いた。なんとなく顔を見合わせ笑い合ってから、別々に教室を出た。ろくに絡みもないまま別れてしまったことをすこし残念に思った。
 廊下に出るとさらに暗い。廊下の途中のなんだか中途半端なところに階段がある。これ、いつもの学校の給食配膳室のところの階段ではないかなと、夢を見ている私が思う。ここを降りたら昇降口に出られそうな気がする。
 ところが、そこで唐突にカメラが切り替わった。建物の外、空中から外壁を写している。ミラーガラスがギラつくなか、一か所、室内が見える。その部屋は壁も床も白く、白いシーツのベッドが一つだけ置かれた、病室のような、これはたぶん保健室だ。
 ベッドの上には白いパジャマを着た小学生くらいの子が一人きりで座り込んでいる。そのベッドがみょうだ。ベッドの頭上と足元の両側の、普通なら柵か板でも立ててあるところに、ブリキのような色合いの大きな金属製の筒が寝かして取り付けられている。筒の直径は三十センチくらいだろうか。それを寝かせてあるのだから、柵のかわりにはなりはしない。
 と、そこで突然、設定が生えてきた。これは、シーツ自動巻き上げマシーンだ。筒は二本ともマットレスに接する部分に溝が開いていて、シーツの上下はそのなかに入り込んでいる。機械を作動させると、ベッドの上に出ているシーツが頭上の筒のなかに巻き上げられて、足元の筒から新しいシーツが出てくるのだ。
 ちなみに、シーツは上下がつながっていて、全体ではベッドの下を通って輪状になっている。放っておけば、ベルトコンベアのベルトのごとく、使用済みのシーツがえんえん引き出され続けることになるらしい。
 それって、まったく便利じゃなくないか。我が夢のなかのことながら、さすがに納得がいかない。今現在、夢のなかに私の体はないのだが、激しく首をかしげたような気分。
 だいたい、こんな機械を子供が触れる場所に置くのは危険ではないか。なにかの拍子に服や体を巻き込んで大けがをしかねない。現に、ベッドの上の子が、筒の溝に手を突っ込みながら機械をいじろうとしている。
 いけない、危ない、と窓の外から慌てていると、また急に視点が変わった。目の前に真っ白な壁、真っ白なベッド、その枕元に金属製のみょうな筒。そこへ伸ばしかけた手が小さい。どうやら私は、ベッドの上の子になってしまったようだ。
 ともかく機械から離れようとベッドから降りると、とたんにシュッと音を立ててシーツが筒に引き込まれた。うっかり皮膚がこすれたら火傷でもしそうないきおいだった。本当に危ない。間一髪だった。
 この子がなぜベッドで寝ていたのか知らないが、とりあえず今は問題なく動けるようだ。部屋を出ようと壁を見ると、一面真っ白で出口がない。
 仕方がないので、そこにあった椅子をぶん投げて、窓を叩き割る。大きく開いたガラスの割れ目をすり抜け、空中に飛び出す。全面ミラーガラス張りの校舎は、今思えばオフィスビルか病院のようだった。その屋上をあっというまに飛び越え、上空へとぐんぐんのぼっていく。

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