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活動日記 2023/08/22-奥多摩合宿

 起きた。昨日さんざんに投げつけられた座椅子やら何やらの重みによって転げ落ちることはなかったが、なにかにのしかかられる悪夢を見たように思える。そのせいかどうか、今日はウルトラマンの呼び声が聞こえなかった。フングルイ・ムグルウナフー・ウルトラ・マン!ル・リエー・ウガ=ナグル・フタグン!
 叩き起こされたときには既に皆起床し、朝食の支度を始めている。否。始めていた。もう、既に食事の用意はととのってしまっている。失態だ。大失態だ。ウルトラマンが声を上げなかったという万に一つの可能性にかけたかったのだが、今回は何時もよりも激しく叫んでいた模様。
 急いで顔を洗って歯を磨き、朝食を摂る。前半はパンやヨーグルトが多かったのだが、今回はフルーツが圧倒的に多い。何故だろうと少し考えて、前半合宿前にやったオンライン面談でフルーツを幾つか頼んだことを思い出して納得した。今回はシャインマスカット、巨峰、オレンジ、バナナと沢山出てきた。毎日ではないが、梨やメロンが出た日もある。
 朝食後、いつものように瞑想に入るのかと思ったが、何故かそうならなかった。不思議に思って時計を見てみると、もう5時50分……僕が寝坊したことで全体的に予定が遅れているのか。慌てて席に着き、予めこちらに送っていたスーツケースを開いて中から学習道具を取り出す。前半進めた中三数学の仕上げをする。円から始まって三角関数まで行くのだが、今回の僕は合宿初日ということで煩悩が幾つもあり思った以上に進まない。途中休憩の8時まで、一番集中できる時間のはずにもかかわらず円を10頁ほど終わらすことしか出来なかった。
 少し落胆しながら、8時の鐘が鳴るのを聞いて立ち上がる。手に持っていた本を机の上に置いた。集中できないからかすぐに本に手を伸ばしてしまう。
 机の上に置かれたお握りに手を伸ばす。個数制限など無いので争奪戦が始まるのが慣例なのだが、今回は人が少なく―未だ4人―全員が2個ずつとっても十分に余る。
 合宿参加者の旺盛な食欲によって胃袋に次々と放り込まれてゆく。この時の具は、たしか昆布。僕が昨日渡した京都土産の内ぶぶ漬けはその日のうちに夕食として出されたが、下馬評を覆してかなり評判は良かった。
 けれどもそれ以外のものは合宿中食卓にはついに上らなかったため、きっとどこかでお握りの具となって飲み込まれていったのだろう。
 そうして少しの間休憩を取ったならば、再び学習に戻る。間食をとったことで少しは活力が宿って進展を助けたが、それでも一日に三平方の定理までを終わらせることは出来なかった。これが初めての分野だというのであれば大躍進だが、これらは皆1度はやったことのあるものであるだけにそこまで喜ばしくはない。
 だが、前半に比べればそれこそかなり良い進み方をしていたと、今になってみれば思える。
 昼食を摂ると、皆が待ってましたと着替え始める。「無敵」や柳さんも着替えはしないが川に行くようだ。そして、誰もいなくなった……
とは、ならない。なるわけがない。
 たしかにほとんどは川に向かったが、2人ばかし川に行かなかったものがいる。彼らは皆一様に過ごした。お握りを食べたり、寝たり。内1人は家から持ってきた本を取り出して読み始めた。
 彼らを紹介しよう。「内藤」くん。そして今1人。彼のことは皆おわかりだろう。僕だ。家から持ってきた「封神演義」を詠みふけり、疲れたら寝る。そんなことをしているうちに彼らが帰ってきた。それと同時に昼の間食が、お握りが追加される。
 それを食べながら再度学習に取り組み、2日目の日中の活動は終わった。かなり短い様に見えるが、時がたつにつれて記憶が薄れていってしまうのだ。
 この辺りはそこまで珍しい出来事が起こったわけではないため、かなりを省略している。
 学習後、裏山へ行って焚き火をした。昨日はまっつんが来ていたのでかなり調子が良かったが、今日はいない。焚き火経験の殆どないメンバーでのスタートとなった。当然薪に火が移らないため枝葉を入れる。けれどもここで誤算が。すこしずつ入れて薪に火を移そうと努力しているのに、小学生2人組がしょっちゅう枝葉を腕いっぱいに抱えて放り込む。そのせいで折角着いた火は木に移る前に鎮火。こんなことを繰り返しているため灰が大量に出て、空に舞う。電線の辺りまで飛んでいったため、「あ~ これ火事になるかもな」などと思い、すっかり力が抜けてしまったがそこはさすが年の功。レイセンや柳さんによって最終的に薪に着火された。もっとも、非常に不安定な火であったために最終的には満場一致で放棄と決定し、鎮火した後、蓋をかぶせて山を下りた。
 この日の夕食は中辛のカレー。ハラッパラッパがインドにいたときの経験で作ったという。本当は前半最終日に「凄いカレー」が出るはずだったのに、その時僕は京都。京都での食事も美味しかったのだが、少し心残りがあった。ハラッパラッパのインドカリー。それを食べることが出来なかった。すでに何度か唐辛子を食べてしばらく辛みには辟易していたが―そのうえ父の実家に帰省中寿司を食べているとき。間違ってわさびの塊をそのまま口に運んでしまい、2度と食べないと心に決めた―やはり未知の味だ。食べてみたかった。
 そんな思いが通じたのか、カレーが出てきた。ただし、量は少ない。その分を埋めるのが圧倒的な量の牛肉だ。牛丼風に調理された牛肉が机の上にどんと大皿に盛られて乗っている。こちらの方が、好評だった。カレーは美味しかったのだが、中辛とは思えないほどに辛い。これがインド風か。結局此のカレーは食べきることが出来ずに翌日へと持ち越されることになる。
 それに対して牛丼。こちらも翌日まで持ち越された点は同じだが、同様美味い。約1名カレーの中に付け込んでビーフカレーだと喜んで食べた奴がいたが、あの激辛のカレーにこの仄かに甘い牛肉を入れるのは、個人的には良くないと思う。たしかに辛みを相殺してはくれるだろうが、それでは唯の牛肉の入ったカレーだ。
 やはりそんなことをするぐらいならば互いの長所を残すために別々に楽しむ方が、よっぽど良いと思う。
 食後、焚き火へ行くことをしなかったために専ら雑談が主となった。レイセンが食事中カレーに牛肉を入れた小学6年生に対して「昔の俺もそうだった」と言いながらも「そんなことしてたら味覚がなくなるよ。もう既にかなり怪しいけどね」と言ったことについて聞いてみると「俺は子どもの頃そうだったけど徹底的に矯正されたから」という。
 レイセンが小学生の頃、通っていた学校は「M学園」という。その某学園では日課は水泳1kmとひたすら学習。親との連絡も週に1回の電話のみという。そんなところに放り込まれたおかげで味覚も鋭くなったという。この合宿も、とろうとしない限り連絡もゲームも絶って学習か読書しか出来ないという環境的には似ていると想う。
 もちろん、僕や学習常連の身にしてみたなら「少し不安な部分の学習をみっちりと出来て、わからないところがあれば遠慮なく聞くことが出来て、食事は美味くて、毎日その気があれば川遊びをすることが出来て、寝る時間もたっぷりとあり、疲れたならば好きなだけ本を読むことができる。読んでもとくに叱られるわけではないし、学習が終わればその疲れを焚き火で払拭できる。こんな恵まれた環境に身を置いているのに、何が嫌だというのか」といったところだろう。
 たしかに普段読書もせず学習もせずゲームばかりやっている少年には厳しい環境だろう。まっつんは14日連続で続けるのが最も理想的であると語る。たしかにそれだけ続ければ頭は良くなるだろう。けれども、それだけの時間過ごすのはさすがに厳しい。スーツケースいっぱいに本を詰めていったとして、かなりギリギリだ。本棚の本を用いれば少しは持つだろう。けれどもさすがに14日は厳しい。
 しばらくレイセンに聞きたいことを聞いた。レイセンの昔の学友が「夏休み いつかは行きたい イスラエル」。この俳句を読み上げたとき、校内で受賞したと、この前書いた。実はそれだけではなかったのだ。校内で受賞したのは2句。
 「南天を 手折りて母の 誕生日」。前の「イスラエル」の句とは雲泥の差だ。「手折りて母の」ここがいい。この配置が良いのだ。よってこの俳句が校内で受賞したのはなにも可笑しくない。よって、何故「イスラエル」が受賞したのだろうか。他の生徒のものはもっと拙かったと、いうことだろう。
 布団を敷く。嬉しいことに。畳で寝ることが出来る。「無敵」がそうはさせまいと妨害してきたが、一瞬の隙を突いて布団を敷き転がり込む。そのままそこで寝ると、先方も諦めたらしく合宿期間中―睡眠の―邪魔をしてくることはなくなった。

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