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心洗われる、群馬県立館林美術館

館林美術館を訪れたのは、2019年の12月。ピカソ展を鑑賞するためでした。

実は、その年までピカソに全くと言っていいほど興味がなかった私。それがわざわざ群馬にまで行くことになったのには、同年夏に訪れた箱根彫刻の森美術館での必然とも呼べる出会いが大きく関わっています。

◆箱根のピカソ館

「ピカソって、なんかヘンテコな絵を描いてる人だよね?絵の雰囲気もちょっと怖くて、近づき難い…」箱根に行く前は、これがピカソに対する率直な感想でした。よく分からないものって、敬遠しがち。まさしく当時の私もそうでした。

これを打ち砕いてくれたのが、箱根彫刻の森美術館です。友人とドライブがてらに行こうと決めた美術館で、そのセクションの一つであるピカソ館には、外の彫刻を回っていた行きがかりで入りました。
それが、衝撃的に良かった。

館内には、キャンバスに描かれた絵よりもお皿に絵付けされた作品が多い印象。それを見ても「うーん…よく分からない…」と、それまでと同じ感想を持ちながら回っていました。

しかししばらくすると、作品ではなく、壁に書かれたピカソの言葉を注視するようになりました。作品についてというよりは、人生観に近いもの。そのときの自身の心情も関係したのか、心にぐっとくる言葉を数多く見つけました。

そして極めつけは、映像。こんなにも夢中になって観たことはないってくらい、画面の前で直立したまま動けなくなりました。彼の人生のほんの一部を垣間見ただけでしたが、それが私の中の「もっと知りたい欲」に火を点けました。

作品のことはまだ好きかどうかも分からないままでしたが、ピカソ自身に興味が湧いてきたことを一緒に来ていた友人に話すと、原田マハさんの小説「暗幕のゲルニカ」を読んでみたらいい、とお勧めしてくれました。

実はその友人、ピカソが大好きだったのです。そして私たちが行ったとき、彫刻の森美術館のピカソ館は偶然リニューアルオープンしたばかり(友人にしてみたら偶然ではなかったのかも)といういいタイミング。私は導かれるようにしてピカソを追い始めました。

箱根の森彫刻美術館、ピカソ館

お勧めされた本を読み(その本がまたとっても良くって!)、ピカソの描いた作品「ゲルニカ」について、その時代背景や作品に込められた想いを知るうちに、実際にこの目で作品を見てみたいという気持ちになりました。

そのタイミングで吉報が。なんと、ピカソのタペストリーが日本で展示されているらしい!場所は群馬県。館林美術館との出会いでした。

◆東京から気軽にショートトリップ

ピカソ展はいつまで開かれているのか、私は慌てて展示会期をチェックしました。実は箱根を訪れたあと、仕事で数ヶ月間アメリカに滞在していました。

10月から始まっていた展示の終了は12月上旬。アメリカにいた私も、なんとか会期中に帰国することができ、友人とスケジュールを合わせ、会期ギリギリの12月頭、ようやく群馬に向かうことができました。

都心からは電車で約2時間。所要時間は違えど、NYのマンハッタンからクロイスターズ美術館に向かう感じと似ているな、と好きな美術館を訪れるときの感覚をぼんやりと思い出しながら向かいました。日曜日だったけれど、こちら方面に行く人はあまりいないのか、車内はガラガラ。のんびり気ままなショートトリップの始まりでした。

最寄りの駅に到着すると、歩くこと数分、ひらけた土地に堂々と建つ館林美術館が見えてきます。

さらに入り口に近づくと、朝日を受けてキラキラと輝く水面が。「ここに来て良かった…!」一瞬にしてそんな気持ちを抱くくらい、その風景はとても清々しく気持ちの良いものでした。

朝11時到着

展示はピカソの素描画から油彩、陶器など見応えたっぷり。彫刻の森美術館とはまた違ったラインナップにわくわくしながら進みました。

そして今展覧会メインのタペストリー。展示を回ってきて、いざその部屋がこの壁の向こうにあるんだとわかると、いつにもなく心臓がドキドキと音を立てます。。

ピカソの「ゲルニカ」を細かく再現したタペストリーは、世界に3つ存在しています。アメリカ国連本部、フランスのウンターリンデン美術館、そして群馬県立近代美術館(今回はこちらの美術館からの貸出し)。

タペストリーを実際に作ったのは織師のジャクリーヌ・ド・ラ・ボーム=デュルバックですが、下絵を修正し承認したのは紛れもなくピカソ本人です。
原画がスペインの美術館から外に貸し出されなくなったという事実を考えると、タペストリーの1つをここ日本で実際に見られるのは本当に有難いことだと感謝するとともに、それほどの出来事(原爆投下)が日本にも起こってしまったということが想起されます。

中に入ると、皆が立ち止まり食い入るように観ている様子が印象的でした。かくいう私もその作品が放つパワーに圧倒され、タペストリーでここまで細かく作れるのかと再現度合いに感動し、他の展示を見終わってもまたこの部屋に戻ってきてしまうくらい魅了されました。

集中して見続けていたためか、見終わった頃にはくたくた。けれど心地良い疲労でした。
疲れたね〜と出てきた私たちを待ち受けていたのは、エントランスに差し込む夕日、そしてそこから見える風景。朝のそれも印象的でしたが、美術館の中から見る様子も格別に美しい。絵画のごとく広がるその風景は、疲れた体に沁み渡っていくようでした。

◆新しい場所に踏み入れてみる

ちなみに館林美術館にはレストランもあります。ちょうどお昼ごはんの時間に行くと何組か待っていたのですが、名前を書いておけば呼ばれるようだったので、レストランのすぐ横にあったドアから中庭へ。ここの芝生が広いのなんのって…!あまりにも広いため、友人と二人、走り回ったり寝転んだり…と人目も憚らず自由に過ごしてしまいました。そんな時間もとても心地良かった!

とにかく「広い」という利点を思いっきり活かしている館林美術館。都会の喧騒から離れ、こんなにも開放感を味わえる美術館が近くにあったなんて…足を伸ばしてみて本当に良かったと思います。一度しか訪れていないのに、その一度目ですっかり心を掴まれてしまいました。またすぐにでも訪れたい場所です。

いま自分が好きだと思うこと以外に、何か引っ掛かりを感じたときには近寄ってみる。そうやって新しい好きに出会えることがあるんだ、と今回の一連の出来事で気づくことができました。

もしも箱根のピカソ館に行ってなかったら、群馬には出向かず、館林美術館を知ることもなかっかもしれない…そう思うと、そこに一緒に行き、「暗幕のゲルニカ」という素晴らしい本を勧めてくれた友人には心から感謝しています。ありがとう。

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