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失敗を失敗にしない。必ず成功に導くモデルたち

以前、撮影での苦い経験談はお話ししたことがありますが(まだ読まれていない方はぜひこちらから→note「現場が凍りつきました、、、attitudeって何?」)、ショーモデルとしても多々あります。
今月3月はちょうど日本で「東京コレクション」と呼ばれるファッションウィークが開催される時期。ということで、今回はそんなランウェイの裏側で起こった数々のハプニングについてお話ししたいと思います。

◆気合いで乗り切ったラストルック

今やSNSでもよく見かけるようになった、モデルがショーで転倒してしまう動画。見ている分には面白かったりしますが、あれが自分だと思ったら笑えない、、、ショーモデルたちはそう思っているはず。いくらウォーキングが上手い人でも、滑る材質の床だったり、ヒールが物凄い高さのものだったり、傾斜のある道を歩かなければいけなかったり…モデルの力では到底カバーすることのできない要因があります。

もし転倒してしまったらどう起き上がるのが美しいのか、近くにいる人に助けてもらうのか。転倒しなくとも靴が脱げてしまったら…?拾って履き直すのか、脱げた靴は放置して片方だけで歩くのか、はたまたそれも脱いで素足で歩くのか…その場の状況によって選択肢はいくつも出てきます。

実は私も、靴のトラブルを経験済み。それはまさに、東京コレクションでの出来事でした。

海外ブランドが来日して行なうショーでのこと。ランウェイは、暗闇の中に差し込む一筋の光の上を歩くような演出。実はこのとき、私は初めて「ラストルック」と呼ばれるショーの最後に歩くモデルを担当。そんな滅多にない機会をいただいて、出番前は普段よりも緊張と興奮で張り詰めていました。

順調に進んでいたショーもいよいよ終盤。私も合図とともに袖からランウェイへ。音楽は、モデルの気持ちが乗りやすいような低音でビートを効かせた曲。私も気持ち良く歩き出します。が、中盤に差し掛かったところで、

すぽっ…

突然、かかとが空中へと浮いたのです。

ヒールの高さはおよそ15㎝。プラットフォームと呼ばれる、前にも厚みのあるハイヒールで、格好いいけれど実は歩くにはなかなかに大変なものでした。知ってはいたけれど、まさか脱げてしまうなんて。。

”ここで完全に脱げたらまずい…!しかも自分はラストルック。転倒でもしたら、せっかくのステージが台無しになってしまう…!”脱げた一瞬、あらゆることが頭の中を駆け巡りました。

その結果、絶対に脱げてはいけない!という意思のもと、ダンッ!!!!と勢いよく踵をヒールに振り下ろし、足を戻すことに成功。つま先で靴底をぎゅっと掴むようにして歩き、なんとか袖まで帰ることができました。そのあとのフィナーレの歩きもどうにか耐え、終わったときにはどっと疲れが押し寄せてきたのを覚えています。あの一瞬の「まずい!」と背筋が凍るような感覚、今でも忘れられません。

ちなみに後でアップされた動画を見たら、内心焦ってはいたものの、しっかりとポーカーフェイス。自分ではかなり盛大に出してしまったと思った踵の音は、流れていた音楽が爆音だっためか特に目立つこともなく、まるで何事もなかったかのように見えました。よかった!

しかしこれ以降、靴が脱げることを不安に思うようになり、ショーでは普段履くサイズよりも一つか二つ小さめのサイズを履かせてもらうようになりました(どうやら私は踵が小さいことが判明)。

現場によっては大きなサイズしか用意されていない場合もありますが、そういうときは中敷きを何枚も重ねたり、踵部分にジェリー状の分厚い滑り止めを貼ったり、場合によってはつま先側にティッシュを詰めたり…できる限り小さくしてもらっています。履いているときは痛いくらいで、歩き終わった後は足が真っ赤でボロボロになることもあるけれど…本番で脱げてしまうよりはずっといい。そう思ってしまうのは、ショーモデルとしての私なりのプロ根性なのかもしれません。

◆場所一つ間違えちゃった

ショーの形は、トップまでまっすぐ歩いて帰ってくるものだけではありません。ジュエリーを見せるショーになると、ステージ上やお客様の近くで止まって見せること、他のモデルと息を合わせて動くことが求められます。

そんなショーでの出来事。4人で一斉にステージに出て行き、客席に繋がる階段に下りてポージング、そこから数秒後に歩き出しという演出がありました。私は階段の中段に立つはず、でしたが、、止まったのはそこからさらに一段下がった場所(そこは、別場面での立ち位置でした)。

すぐに”あ、やったわ私…”と間違いに気づきましたが、時すでに遅し。お客様にお尻を向けて一段上に戻るわけにもいかないため、軽く微笑んでいた表情にさらに笑みを増してやり過ごす数秒間。大丈夫、これが正しい位置なんですよ?と言わんばかりに会場に微笑みかけながら、もれなく自分にも言い聞かせながら。こういうときの数秒って永遠に感じられるんですよね…早く終わって〜!と思いながらどうにか耐えました。

あとで聞いたら、一緒に出てた子も気づいていたらしく…しかし特に動揺することなく、冷静に受け止めてくれたようで助かりました。。

◆目の前にいたモデルが急に止まる

自分がやらかすこともあれば、目撃する側になることも。

ショーのフィナーレ。モデルが一列に連なって歩いていき、ランウェイのトップに設置されたお立ち台に円を描くように止まる演出がありました。私ももう少しでトップにたどり着くと思ったそのとき、私の前にいたモデルが、リハーサルで言われたところとは別の位置に止まったのです…!

「え!そこじゃないよあんた…!」

なんて声に出すわけにもいかず、私はしれっと自分の位置につきました。他のモデルが続々と立ち位置に着く中、どうやら彼女自身も気づいたらしく、周りをキョロキョロと伺う様子が視界の端に見える。。いや、キョロキョロされても助けてあげられないよ…自分が間違えたわけじゃないのに、一緒に出ているモデルが間違うとこちらも動揺しそうになり、いつもとは異なる緊張感を味わいました。

別の現場では、大切に思っていたショーで転倒し、裏に帰ってきてボロボロと泣いてしまった子もいました。周りにいたモデルたちが「よくあることだから大丈夫よ!」「気にしないの!」と励ましていたのを覚えています。今思うと、皆数々のそういった経験を積んできた猛者もさたちだったのかもしれません。だから悔しさや悲しみもわかるし、気にしすぎないメンタルも大事だとわかっている。転倒しても裏に入るまで堂々と歩ききった彼女も素晴らしいと思いました。

ちなみに会場は屋外で、床はリハーサルのときから滑りやすい上に、本番では雨が降っていました。そんなの不可抗力だよね。

またこちらはミラノコレクションでの出来事。モデル2人が対になる服を着て一緒に歩くという演出がありました。2人の服の柄を合わせると一つのアイコンが見えるということで、歩く速度や振り返る方向・タイミングを揃えることが重要。

私の出番。トップに行くまでは順調だったのに、振り返る瞬間、組んでいた子が予定とは違う方向に向くのがわかって、緊張が走ります。また、帰るその先には次のモデルたちが歩いてきており、このけ方も間違ってしまうのか…?とハラハラしたのを覚えています。

これハプニング以降、2人で歩く演出に関しては、相手が不安そうにしている場合は本番までにそういう部分がなくなるよう、動きを確認し合うようになりました。ショーの見え方を考えたら、自分1人だけ合っていればいいというわけにはいかないのです。

◆モデルで一番大事なスキルはこれだけ

失敗した!まずい!と思ったときにモデルがどうしたらいいか。一番は、堂々としていることです。「あ!(やっちゃった!)」っていう顔をしないこと。動揺した姿を見せないこと。かっこいい顔や、場合によっては微笑みでやり過ごすこと。

結局、それが間違っているかはお客様にはわからないし、一瞬違和感があったとしても、モデルが平然とした態度をとることで”あれ?これも演出なのかも?”とさえ思わせることができます。

ショーは生ものです。もし前にいるモデルが間違った方向にはけてしまって、一瞬で自分の判断を迫られたときには、たとえリハーサルと違っていても、ショー全体が不自然に見えないよう、前のモデルについていく臨機応変さも必要です。できるだけ間違えないようにするけれど、かといってかたくなに自分を曲げないこととも違う。だからショーモデルにはチームワークも必要だし、実は一人で歩いているわけではないんだと毎回思い知らされます。

周りが間違えているのを見て動揺したり、自分が間違えたり(私も周りを動揺させているってことです笑)…そんなことを繰り返していると、たとえ自分が出ていなくとも、ステージ上で起こるハプニングを他人事のようには思えません。
だからこそ実際にショーに出るときには、自分のやることに集中するとともに、ショー全体がどう見えるのかを頭の片隅に置いておくと、急な出来事にも対応できるのかなと思います。

◆おまけ

今回の3月のショーでも、過去1難しいんじゃないの…!?と思われる動きのショーがあり、モデル全員に緊張が走る場面がありました。私も長年やってきて初めて、本番直前まで間違えないかどうか不安に思ったくらいです。ショーの現場では珍しく、リハーサルが始まる前にモデルたち自らが裏で自主練を始めました。複雑な動きは皆で教え合い、最後は「もし間違っても平然としていれば大丈夫」という気持ちを合言葉のようにして臨みました。

そして本番。ショーは大成功だったのではないでしょうか。それは鳴り響く拍手が物語っていました。実は、向かってくるモデルとぶつかりそうになったり、歩く間隔が詰まるようなシーンもありましたが…皆さすがプロフェッショナル。誰1人、表情を崩すモデルはいなかったように思います。

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