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018 追撃の横で

「それから…」

広い事務所に女王こと七林部長の声が鳴り響く。

「わたし、あなたに言ったよね。社用車の車点検まとめといてって。どうなった?」

「あ、は、はい、えーっと」

繰り出される女王の攻撃に、多田さんは、それこそただただうなずいたり、愛想笑いしたりしていた。

不謹慎だが、僕はこの様子を興味深く感じていた。どう考えても重要とは思えないことを引っ張ってきては、多田さんに、あーだこーだ言っている女王。これがパワハラと呼ばれるものだと気づくには、僕にはもう少し時間が必要だった。

でも収穫もあった。僕は、他人に難癖をつけることが目的になっている人間が少なからず存在することに、これをきっかけに気づくようになっていく。これは、僕が仕事をしたり人付き合いをする際に軸となるものの一つとなるのであった。

それから、人はそれなりに考えがあって行動してるはず。多田さんもそうだからこそ、何も言葉がでなかったんだと思った。

なんとなくではあったが、まともな人間になるための、ピースの一つを手に入れた瞬間だったのだと思う。

このように、この時は珍しくたくさんの考えが僕の中に沸き起こった。これはこれまでになかったことだった。


女王の多田さんへの攻撃をよそに、僕は明日から働く仲間たちとのファーストコンタクトを果たす。

フロントの事務所には当然フロントのスタッフがいた。女性が二人。20歳の女性と30代半ばの中国人のチーフ。

チーフは日本語と英語が堪能。20歳の女性はちょっと気の強そうな印象を受けた。

名前はチーフがリャンさん。20歳の女性は焼津さん。

この二人に加えてもう一人20歳の男性がいるそうだが、今日は休みということだった。


ひとしきり挨拶を終え、多田さんが放免されるのを待っていると、いま挨拶した20歳の女性、焼津さんが近づいてきた。

「今日はね、もう一人大事な人が来てるから。もうちょいでくるからあっていった方がいいよ。巨乳で美人だよ」

ニヤニヤしながらそう話す。

巨乳で美人

ある層にはかなりの訴求力があるキャッチフレーズかもしれない。

でも、正直なところ、僕は未だに人を見かけで判断する意味が理解できないでいる。だからこの時も、僕はこの言葉になんの価値も見出せずにいた。

「そ、そうなんですね^_^」

どう答えたらよいものか、愛想笑いしながら、こんな感じで返したと思う。

「でも、怖い人だからね」

なんとなく引っかかる言葉ではあったが、とりあえず挨拶はした方がよいので、多田さんの解放を待ちつつ、ご登場を待つことにした。

待っている間、焼津さんとリャンさんはしきりに僕のことを聞いてくる。前職な話、なんでこんなところに来たのかなどなど。

同時に自分たちのことも聞かされた。といっても私は何一つ質問していない。人でなしなので、個々の人の営みだとか人生にそんなには関心がなかったからだ。

焼津さんは、かなりおしゃべりで、彼女のお母さんは週に一回は差し入れを持ってくること、大好きな彼氏がいること、美人のお姉さんがいることその他を聞かされた。

リャンさんは上海出身。既婚者で、家族と近くにある社員寮に住んでいるらしい。

彼女たちの話を聞かされながら、僕は多田さんの方をうかがった。

まだまだ続きそうな様子だ。


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