015 LINEのあの人
バス停からそれほど離れていないところに、駅がある。僕はいちもくさんにその駅を目指す。
面接の前に着替える必要があったし、歯を磨いたり、髭をそったりといった一連の朝のルーティンがまだだったからだ。
駅のトイレでそれらを済ませ、僕は面接のある場所へと向かうことにした。
スマートフォンで場所を調べる。歩いていけそうな距離だ。
大通り沿いをひたすら歩く。駅前はやけに高い建物が多かった。でもしばらく歩くと川があり、川沿いにはおしゃれな建物が並んでいた。橋の上でしばらく立ち止まり、風景を楽しむ。
ただ漠然とだけど、こういうところで生活してみたい、そんなことを考えていたと思う。
さらに僕は歩き続ける。
それからさらに10分ほど歩いた。そして目的地へのビルが目に入ってきた。
エレベーターに乗り込み、オフィスへと向かう。
オフィスに着くと、女性が待っていて、迎えてくれた。慣れた感じで面接を行う部屋へと僕を連れて行く。
「どうぞ」
そう言われて、僕は椅子に腰を下ろした。
「今日ははるばるお越しいただき、ありがとうございます」
LINE面接のあの女性だ。彼女は矢継ぎ早に話を始めた。
今の会社の状態、ホテルを始めるに至った経緯、人材が不足していること、社長が一代でどれだけのことをやってきたのかなどなど。
彼女の話を一通り聞いた後、僕は正直に話をした。先日の温泉地での面接のこと、そしてそちらにお世話になろうかと思っていることを。
この僕の話を聞いた後、彼女の話はさらに熱心に話を続けた。まるで、僕が別のところに行こうとしているというのを聞いていなかったかのように。そしてしばらく話し続けた後、急に黙った。
そして、口を開き、こう言った。
「うちに来て、助けてくれませんか?」
こうなると断りきれなかった。僕はこの時空気を読むことを学んで実行した。
こうして僕は、この会社に入社することとなった。
当然引越しをすることになる。10日の猶予が与えられ、10日後再度本社へ来ることとなった。
社長、ライン面接のこの女性、そしてホテルで働くスタッフ。もう少しこの時突っ込んで聞いていれば、僕の進む道は違ったものになっていたのかもしれなかった。
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