005 BUS STOP
シャトルバスが到着するという、有名なビルの前。
「遅れてはまずい」
僕はそう思い、一時間ほど前からバスの到着を待っていた。
ここまでの道のりは比較的順調だった。スマートフォンで検索をすれば、間違いなく目的にたどりつける。大体の場所はこのおかげで無事にたどり着けた。
でも、今回はちょっとだけ苦戦をした。というのも、シャトルバスの到着する場所として案内されたところには、バスの停留所らしきものがなかったからだ。
現地に着いたとき、僕は当然バスの停留所を探した。でも、表示板もなければ、人が待つためにベンチがあったりだのというのスペースも見当たらない。
あとでわかったことだが、その場所はバスが止まっても差し支えない程度にスペースがあるので、バスの乗り降りに使われているということのようだった。
お目当ての温泉地行きのシャトルバスが来るまでの間、海外からの観光客と思しき団体をいくつか見かけた。いろんな旅行会社のツアーがここを乗降場所として使っているようだった。
たくさんの荷物。
必要以上に大きな声。
そして、道に広がり周りの交通を必ず妨げる。
どの団体にも共通していた。とはいえ、だからどうというわけでもなく、いろんな人がいるんだな程度にしか僕も考えていなかったと思う。それに、道を行く人たちも、無関心な様子だった。これが後にお相手することとなる「インバウンド」の観光客なんてことは、この時知っているわけがなかった。
やがて、お待ちかねのシャトルバスが到着した。名前を告げ、乗車許可を得る。席はあらかじめ決められていて、僕は指示どおりに着席した。
シャトルバスはそのまま10分程度止まったままで、客を待った。そして出発の時間が来ると、運転手が出発する旨をアナウンスし、エンジンを始動させた。バスが動き出す。
実は僕がバスに乗るのははじめて。
残念ながらこの時は「わくわく」というのを知らなかったので、興味深い感覚?と言ったらいいのだろうか、何とも言えない感覚になったのを覚えている。もし、今ほどにわくわくを知っていたなら、にんまりしていたはずだ。でもそれはそれで周りから見れば気持ち悪いだろうから、わくわくを知らなくてよかったのかもしれない。
バスはここから2時間ちょっと走るらしい。
そして、この2時間ちょっとの時間は、人間観察の貴重な機会となるのだった。
バスには、僕以外の乗客は4組程度しか乗っていなかった。おそらくウイークデーというのが関係していたのだと思う。
僕の席の前に若い女性の二人組。席の最前列付近に4人組の中年男女。僕の斜め後ろに年配のご夫婦。一番後ろにおそらく中国人と思しき5人グループが乗っていた。
聞き耳を立てていたわけではない。でも、会話がいやでも耳に入ってくる。それに、バスに乗るなりお酒を飲み始めるグループもいる。
いま思いおこせば、バスが出発するまでには、ちょっとした宴会のようになっていたグループもあったりで、それらの人々の行動や会話は、僕の関心を引き付けるのに十分すぎた。
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