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010 黒いスーツの男

台風が通った後のように、バスの中は静かだった。皆寝たのか、それともあれだけのことがあった後だからなのかわからない。とにかく静かだった。

バスは高速を降りて、山の方へと進んでいく。時間の経過とともに、周りの景色がそれを教えてくれている。

「温泉地に間も無く到着です。」

しばらくすると、運転手さんが温泉地到着を知らせてきた。

「直接ホテルへ行かれる方はこのままご乗車ください」

温泉地の中心部で下車することもできるらしかった。このときは、誰も下車する事なく、バスはそのままホテルへと向かった。

「ホテルへ到着です。皆さまご乗車お疲れ様でした。」

一番疲れたのは、確実に運転手さんなはず。僕はそう思った。

バスはホテルの正面へと停車した。正面の玄関にはスタッフが総出でお出迎えを行なっていた。

バスのドアが開き、順に乗客が降りていく。例の中国人たちも、大人しく順番に列をなし降りていった。

バスを降りると、みなさん笑顔でいらっしゃいませの大合唱。いろんな制服を着ている人がいた。今思うといろんな部署から動員されていたんだろう。

エントランスの隅の方で、運転手さんと黒いスーツをきた男性が話している。僕がその様子を見ていることに気がつくと、二人は話をやめ、運転手さんは離れていった。

そして、スーツの男性は会釈をして、僕の方に近づいてくる。

「xxさん、ありがとうございました。お怪我などありませんでしたか?」

話しかけられた。

「私、支配人のxxと申します。」

名刺を差し出された。初めての名刺体験。きっちり両手で受け取って、自分も名乗る。

支配人の名前をみると、メールに書いてある名前とおなじだ。あれ?面接する人?

「お待ちしておりました。さあ、こちらへ。」

当たり前だが、到着早々、面接が始まろうとしていた。僕は支配人の後をただただ付いて行く。

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