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しょっぱくて、意外と癖になる

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しょっぱくて、意外と癖になる 5杯目

しょっぱくて、意外と癖になる 5杯目

次の日、富山はなんとか朝起きることに成功し、学校へ行く支度をしていた。
あの後、ノリコはビールを三本追加し、ラーメンをそのつまみにしてどうにか食べ切った。彼女のビールが三本目に届こうかというときにオーナーが釣りから戻り、「せっかく友達が来ているのだから」と早上がりさせてもらったのだ。
「それにしても、昨日のノリちゃんは何かが憑依していたかのようだったなあ」
お酒の飲みっぷりや富山への態度はいつも通

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しょっぱくて、意外と癖になる 4杯目

しょっぱくて、意外と癖になる 4杯目

「ノリちゃん! どうしたの?」
まさか、一旦持ち帰った怒りをどうにも消化できなくてリベンジに? 
「・・・瑞希。うん、・・・ラーメン食べに」
富山は違和感を感じた。らしくない歯切れの悪い態度もそうだが、よくよく観察すると服装がいつもと違っている。常日頃、彼女はきれいめのオフィスカジュアルを好んでいる。しかも身長が低いのを気にして、ヒール以外履いているのを見た事がなかった。大学主催の新入生歓迎遠足で

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しょっぱくて、意外と癖になる 3杯目

しょっぱくて、意外と癖になる 3杯目

「豚骨ラーメン 彦一」の看板娘である富山瑞樹は、大学二年生である。
大学のある福岡市と実家のある北九州市では通うのに時間がかかる為、一人暮らしをしている。人間科学部に在籍し、一年目こそ真面目に通っていたが、ここ最近はバイトに明け暮れてほとんど午後にしか学校へは顔を出していない。まだ二年目だからと高をくくっているが、今度の前期試験では痛い目をみることだろう。
そんな彼女の城は、店から歩いて五分のとこ

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しょっぱくて、意外と癖になる 2杯目

しょっぱくて、意外と癖になる 2杯目

「いらっしゃいませ! あ、ユミさんいらっしゃい、今日はもうお店終わったんですか?」
「うん、今日全然客来んかったけん、早めに閉めたっちゃん。とりあえずビールばもらえる?」
「豚骨ラーメン 彦一」がある商店街は近くに高校や大学がある学生街で、割安な居酒屋が所狭しと並んでいる。チェーン展開している居酒屋が立ち並ぶ通りは、サークルなどで利用する大学生達や、仕事帰りのサラリーマンを呼び込もうとする、メニュ

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しょっぱくて、意外と癖になる 1杯目

しょっぱくて、意外と癖になる 1杯目

「くだらない」

言われた当人は、あまりの驚きに不快感を表わす事すら忘れているようだった。何故なら彼は、ラーメン屋でちょっと軽口をきいた客であり、言葉を放ったのはそこの店の店員だったからだ。
その客はただ、今日起きた自分の自慢話を気分よく話し、彼に同意を求めただけだったのにも係わらず、だ。
てっきり適当な相槌をもらえると思っていた客は、
「ごめん。俺、酔ってるから聞き違いしたんかな。なんて?」

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