一期一会トップリーグ観戦記


毎年正月は花園で開催される、高校ラグビー全国大会準々決勝を観に行くのが我が家の恒例行事となっていたが、今年はあいにく無観客試合ということで、泣く泣くテレビとネット中継で観戦した。


トップリーグが始まり、兼ねてから一度プロの試合を観てみたいという念願叶い、先日観戦することができたのである。

場所は大阪、万博競技場。ドコモ対YAMAHA。

YAMAHAには今期で引退を表明してる五郎丸選手がいるし、ドコモには南アフリカ代表のマピンピ選手、ニュージーランド代表のTJペルナラ選手がいるのだ。これは気合が入る。

当日、息子は今からあんた試合なの?というくらい、ラグビースクールのジャージで決め込み、完全に気分を盛り上げていた。スパイクも履いていくと言い出したが、足が痛くなるからそれは止めた。

夫もわたしもカンタベリーのウェアに身を包み、でかいバッグに飲み物やおにぎり、お菓子を詰め込んだ。しかも夫はラグビーボールもひそかに持参していたのである。

阪急からモノレールに乗り変えると、家族連れや体格の良いラグビーウェアを着た学生たちで溢れかえり、「とうとう来たのか、、」と胸も踊る。

ラグビーワールドカップが日本で開催される以前の花園に行った際は、キャップを深めにかぶり、決して浮かれず静かなるラグビー愛を身にまとまったいぶし銀のおっさんたちで溢れかえっていたが、それを上回るくらいの家族連れや女性たちが増えていることに気づく。

わたしも初めてのトップリーグ観戦で、完全に浮き足立っていた。それを象徴付けたのは会場手前にあるドコモの記念撮影ブースに並んでしまったことである。

マピンピ選手とTJペルナラ選手の等身大パネルと一緒に撮影できるというもので、夫は一瞬並んだはいいが、グラサンの奥で何やら考えはじめ、「やっぱオレは入らない、写真撮ってあげる」と、冷静な発言をしたのである。グラサンの奥で「さすがにこれは浮かれすぎではないか、、」と自問自答の影が見え、「ドコモのブースの人が撮ってくれるよ?」と伝えると、「いや、だけど、、」と、グラサンの奥はかなりの焦りの色が見える。

順番がきても、「いや、オレは、、」と、もごもごしながら、結局は家族三人で撮影してもらった。満開の笑顔のパネルのマピンピとペルナラ、そしてさわやな息子の笑顔、浮かれまくった顔のわたし、そして、グラサンの奥で照れて引きつった笑いの夫。

浮かれたトップリーグ観戦の幕開けである。


入場口で検温を済ませ、ドコモからド派手なピンク色のベースボールシャツが一人1枚配られ受け取る。コロナ対策で、会場がしーんと静まりかえってるのも異様な光景だった。

選手のアップを見ながら、夫が横で「あの場所でラグビーやりてえ」とつぶやいていたのをわたしは聞き逃さなかった。

周囲を見渡すと、皆配られていたベースボールシャツを着ていて、スタンドはピンク一色になっていることに気づく。なるほど、そういうことかと、カバンから取り出し、真面目にそれを着るが、息子も夫も一向に着る様子がない。二人黒のジャージですかしているではないか。

試合が始まる前に三人で記念撮影し、スマホで確認すると、わたしだけド派手ピンクシャツに、茶色のグラサンで、それを見た夫に「大阪のお好み焼きのおばちゃんみたいやな」と言われる。うるさい。

試合が始まると、一気に熱くなる。声を出してはいけないのか、相変わらず静まり返った会場だが、ついつい白熱すると、「いけー!」だの「ナイストライ!!」と叫んでしい、はっとする。ここはスクールの試合ではないのだ。静かに見ようと思えば思うほど、試合は白熱するのでもどかしい。

結果は33−21でYAMAHAの勝利、ドコモもあと一歩のところでトライを決められず、非常に残念だったが、目の前で世界の有名選手のプレーを観られただけでも至福であった。

そのまま会場を後にしかけた時、同じラグビースクールの子どもとお母さんにばったり遭遇。体を動かしたかった夫は、ここぞとばかりに持参したラグビーボールを取り出し、その場で子ども交えてパス回しが始まったのである。

気づくと、近くにいた知らない子どもも混じって円ができていた。やはり観戦だけでは、子どもは物足りないようなのか、ボールを触ってる姿は皆生き生きと輝いて大変微笑ましい光景である。

聞くと皆学年もバラバラで所属してるスクールも違う。なのに、今日知り合ってすぐにパスを通じて縁ができることはすごいことだ。中には韓国人とアフリカ人のハーフの子がいて、やはり運動神経は目を見張るものがあった。数年後には、松島幸太郎のように花園で活躍しているかもしれない。

しばらく微笑ましいパス練習は続いたが、誰よりも楽しそうにキレのいい動きを見せていたのは、ラグビーがしたくてうずうずしていた我が夫であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?