ずっこけ盆踊り放浪記①


十数年前、当時働いていたカフェの社長から「阿波踊りの観覧チケットあるけどいる?」と突然言われた。

まだ盆踊りなど興味もなかったけど、阿波踊りは知っていた。なんとなく流れでいただいて、まだ結婚前の夫と懐かしの日産ウィングロードをぶっ飛ばし(今はハイエースに変わった)徳島阿波踊り弾丸ツアーを強行した。
生で観る阿波踊りの迫力はすごかったし、道端で腰を低く落として踊ってるおっちゃんたちのいぶし銀の踊りもまた乙なもので、格好いい!と思えた。
夫は夜な夜な踊り倒すおっちゃんたちを繁々見ながら、「おい、ちょっと待って、ここキューバみたいやん」と言った。
もちろん阿波踊りは観覧のみで、一切踊ってはいない。
ズブの素人がなんとな〜く来て、適当に踊るなんて許されない雰囲気を肌で感じていたからだ。また、踊りたいとも思わなかった。

それから十数年後、まさか自分が盆踊りにハマるとは予想などしていなかったのだが、なんらかの伏線はここでできていたと思える。

つい先日、郡上おどりのイベントが京都で開催されると情報を得た。
郡上おどりは兼ねてから行きたかった踊りの一つである。阿波踊りと並んで有名なのだが、遠方だし行くにはハードルが高い。想いだけが募る日々で、まさか京都で!と心躍ラズにはいられない。知り合いも誰もいないがここは一つ、参加するしかない。

それを聞いた夫が「おれも行こうかな」と呟いた。
それじゃあ、ということで二人で出かけることにした。
出かける前にせっせと浴衣の着付けをしていると、夫はギョッとした顔で「え、浴衣で行くん?」と言ってきた。
私服でさらっと参加する程度と夫は考えていたようだが、こちらは場所は京都であるが念願の郡上おどりである。気持ち的に正装していきたい。
私は真顔で「当たり前やん」とだけ答えた。

行きの道中で急にハッとして、「ちょっと、なんかすごいこの人意気込んでると思われるやろか」と夫に聞くと、「いや、実際に意気込んでるやろ」と冷静に返された。

夫はイベントに参加した後、そのまま新幹線で単身赴任先の千葉に戻る予定だったので、割と大荷物を二個担ぎ、黒Tシャツとデニム、深々とキャップをかぶり、グラサンをかけていた。その姿は業界スタッフ感が尋常なく出ていた。逆に私は調子に乗って浴衣を着ていたので、側から見たらどう考えても「演者とスタッフが次のロケ地に向かってる」としか見えないだろうな、という結論に二人で至った。

意気込んでアドレナリンが出はじめている私と、さらっと見て帰る程度の夫の、モチベーションが違う夫婦がいざ、会場に到着した。

つづく









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