女性にだって性欲はある。だけどピンヒールもガーターも似合わない。彼のスイッチを押せない日々。

「性欲が強い」「性欲が弱い」とは一体なんなのだろうか。

私の夫は性欲が強くない。「ない」とか「弱い」という書き方でなく、「強くない」とあえて表現したのは、全く性欲がないというわけではないし、いざ開始!プレイボール!となればそこそこの労力をつぎ込んで試合に挑んでくれるからである。問題はその頻度と質。

そもそも性欲というのは個人的なものであって、強いとか弱いとか比べるのがおかしいのかもしれないなと最近思い始めている。だって3大欲求の仲間である睡眠欲や食欲に関しては「俺、他の人より食欲が強くて困ってる」だとか、赤裸々さがエグいと評判の女子会で「私ほんと睡眠欲が強くて。でも彼氏が弱いタイプだからなかなか恥ずかしくて言い出せないんだよね」なんて聞いたことがない。食べるのが好きな人はただの食いしん坊だし、眠るのが好きな人は寝ればいいという反応で終わる。潔いまでに個人の話なのだ。

ちなみに私は3大欲求すべてに置いて意識高め。いっぱい食べたいし、いっぱい寝たいし、いっぱい触れたい。

性欲に関しては、自慰行為で完結しない限りは「相手ありき」の話なので、何百年も議題としてパートナーとの性欲の不一致に悩んでいる人が多いように思う。

だから私の悩みに関して正しい言い方をするとすれば、「夫が私ほどの性欲レベルに達してくれないことに不満がある」という感じだろうか。

今すぐ焼き肉大盛りで食べたいよ~!という私に対して夫が、お腹空いてないからおにぎりでいい?と提案してくる感じ。いや、おにぎりだとしても、それが塩むすびでも、今日食べるための提案をしてくれればまだいい。けど今のこの性欲のすれ違いだと「今焼き肉大盛りが食べたい!」に対して「今日ではない、いつかわからないけどおにぎりにしよう。」とトンチンカンな返しをされてる感じなのだ。これだと「おにぎり的なボリューム感か~」と「いつかわからないけど今日ではないのか~」とダブルでテンションが下がってしまう。

母が性にオープンなタイプであったのもあり、私も弟も性にはオープンで、割とクレイジーな仕上がりに育った。弟は久しぶりに会うと「こないだデリヘル呼んだら長州小力が女装したみたいなのが来た。」などとライトな感じでお姉ちゃんに報告してくれる。がんばれ。

世の中の幻想?では「性欲は男性>女性」と思われている節がある。まあ私も女性としてしか育った経験は無く、残念ながら輪廻の記憶もないので、それが本当の所どうかはわからない。でもこんなのパートナーとの間の話なんだから平均的な話をしてもしかたがないと思う。性欲が強い男性も女性もいる。

仮に女性の方が一般的に性欲が弱い生き物だとして、だからって性欲がないわけではないんだから、とも思うし。男性のほうが性欲が強いものだと思われるのは、ただ単に性欲がMAXになった時の行動が、男性は脳みそが性器にあるのかな?みたいな感じになってしまうからではないかと思う。彼らは下半身の脳みそに従って行動するととても直接的だ。

女性は性欲MAXになってももう少ししたたかに進める。ヒールを履いて飲みに行って足が痛いだとか、飲みすぎちゃっただとか、返りにコーヒーでも飲んでく?とか。その違いじゃないのかな。

夫とまだ恋人だったころ、私達は毎週末ホテルに泊まっていた。私は過去元彼にラブホのフリータイムでギネス記録を更新するつもりなのかってくらい連続で求められたことがあるけど、夫は1回で終わりだった。つまり週1回。ちょっと間を置いて2回目ができたことは多分交際期間と結婚後を含めて2~3度あるかないかだったと記憶している。

夫とは職場恋愛だったため、平日は30センチの距離で見ることが出来るのに触れられないというジレンマと戦っていた。そんな抑圧された環境を5日間、命からがら乗り切りやっと週末くっつけるのに、1回だけというのは当時も不満に思っていた。事後自分の持ちうる最大限のかわいさを寄せ集めて「もっかいしよ♡」と誘ってもダメだったし、改めて起床後に誘ってもだめだった。

交際期間でそんな調子なので、同棲後は週1が2週に1回になり、1ヶ月に1回くらいになり…と減っていった。同棲当初は家の中で場所を変えたりもしてたけど気づけば毎回寝る前ベッドで行為が始まるようになった。寝る前だから当然私はスッピンだしノーブラだしパジャマで、夫ももちろん、腕時計を外したりベルトをカチャカチャしたり、裸にネックレスを揺らしたりすることもない。目がめちゃくちゃ悪い夫はコンタクトを外しているので、人肌くらいの温かさなら私でも人形でもわからないのではないか。

日曜日なら明日のお弁当を作るのに起きる時間までの逆算を気にしながら、お隣さんに配慮して声を殺したまま行為が終わっていく。

それでもまだ、あればいい。

一時期、毎晩「今日は…」と誘っても断られていることが続いていた時、夫がヤラシイ動画を見ている事がわかった。私のそもそもの考えでは、男性の自慰行為が性行為そのものとは全くの別物であることは理解しているので、普通に私との関係を持っていてくれさえすれば動画でもグッズでも使ってお好きにどうぞ。と思うんだけど、その時はさすがに傷ついた。私を見ても、私が触れても、私が誘ってもダメだけど、他の子は自ら見るのか。それも、アイドル級にかわいいとはいえ触ることもできない画面越しの相手なのに。(今の女優さんは本当にかわいい。)

その時我慢できずに夫を責めてしまった。むしゃくしゃしていた。反省している。

夫はふてくされてもう一切そういった動画は見ないと言った。私は見ないでと言ってるのではなくて見てもいいけど私も寂しくならないようにちゃんと相手してよね!という話をしたつもりだったんだけど、一切見ないことを高らかに宣言していた。

その後あまりにも行為が少なくて寂しさを訴えて喧嘩になった時、夫は「そういう動画も見るなって言われて、性欲のスイッチなんて入れられるか」みたいなことを言っていた。お前が勝手に断食してんだろって話なんだけど、やっぱりそのキッカケを私が担ってしまったことも罪悪感はあるのでなんとも言えない気持ちになって「そんなんならもっと見てくれていいよ」とポツリと伝え、背中を向けて寝ることしかできなかった。

私は、例えば、私を見て、私に触れて、私が触れて、夫の性欲のスイッチが入ればいいのになと今でもずっと思っている。夫の言っている(外部の要因によって性欲が湧いて、それを私で発散する)ことは、女としてとてもさみしいことではあるけれど、悪いことだなんて言えない。理想と現実は違う。

私は画面の中で脱ぐ彼女たちのように美人ではないし、スタイルも良くないし、そもそも夫婦間の性行為は動画のようなファンタジーとは違う生活感溢れる行為だ。いつか夫が私の裸に一切反応出来ない日が来てしまっても、それは夫の身体的能力のせいではないだろう。ランジェリー姿の彼女たちが夫の目の前に現れたら反応するに決まっている。

私は夫が手の届く範囲の選挙で1位を取って妻になれたというだけで、夫が選ぶ!世界の女ランキング~!で1位を取ったわけではないのだから。

私はその気じゃない日でも、夫が隣に来て髪をなでてくれたらその気になれる。フラットな精神状態でいても、ふと彼の手を見てあーしたいなぁと思うこともある。寝顔を見ていたずらな気持ちになることも、もしゃもしゃと夕飯を食べる彼の口元を見てそういう気持ちになることもある。
もちろん恋愛小説を読んで、映画を見て、テンションが上がることもあるけれど、彼がキッカケでスイッチが入ることのほうが圧倒的に多い。私は今日までずっと彼を下心いっぱいに見ている。

夫が私の誘いを断ってきたセリフには「(前回してから)まだ性欲が溜まっていない」「いつも誘われるから」「動画とかを禁止されたから~」「そういう気分じゃない」などがあげられるのだけど、生理的なものとはいえちょっと寂しさを感じずにはいられない。だって彼の断り文句には一切の「私がスイッチを入れられる可能性」がない。

性欲が溜まっていない、けどくっついてたらしたくなった
動画は見てない、けど私の下着姿を見たらしたくなった
そういう気分じゃなかった、けど誘われたらそういう気分になってきた

という可能性が、まったくもってない。ミジンコほどのスキマもない。

私は海外ドラマが好きでよく見るんだけど、外人はすごい。くそエロい総レースの下着にテロンテロンの生地の薄ーいガウンを羽織り、ガーターに真っ赤なピンヒールで、いきなり夫が作業に夢中になっているガレージに「ハーイ」と現れたりする。大体ワイングラス2つとボトルを持って。

夫がベッドでノートPCを開いて仕事に明け暮れているときも、やはり同じ格好でウォークインクローゼットから登場する。もしかしたらウィッグでイメチェンしてるかもしれない。

どちらにせよ夫は「ワ~オ、すごくきれいだ」と言って、スパナやノートPCを投げ捨て(本当に投げ捨てるのだ)、妻をひょいっとボンネットに乗せてみたりベッドまでエスコートしたりする。目を見ながらストッキングをゆっくり脱がせていく。

すごい。海外ドラマのワイフは断られることを知らない。すごい。

前述したとおり夫は私によって性欲スイッチが入ることはないので、私がそんな格好で現馬鹿みたいにハァイと登場しても気まずそうに断るのだろう。違う意味のワ~オくらいは聞けるかもしれないけど。
もう有名な占い師でもここまで見えないだろうと言うくらいに未来が見える。これはやめておいたほうが得策だ。

過去にネットで「ワイシャツ一枚にショーツがグッとくる」意見を読み、コレだとおもって仕事から帰宅してその格好をしてみた。「どうしてそんなに寒そうな格好してるの?早く着替えなさい」とパジャマを持ってきてくれた。もうそこまでされたら、パジャマを履くしか無い。作戦は失敗である。

相手に誘いが伝わらない上記の場合も、伝わっているけど断られる場合も、結構恥ずかしい。私は女性に性欲があること自体を恥じてはいないけど、「誘ったのに断られる」というのは恥ずかしい。だからいつからか、ふざけた感じで誘うことしかできなくなってきた。まぁ具体的に言うと夫の下半身を触ったり、首とか耳にちゅっちゅするってヤツなんだけど、上手くいった試しがないので今後も上手くいかないんだと思う。

ふざけて誘えば相手がその気でないことは気まずくならずに判断できるけど、直接的に断られないとはいえちょっとずつちょっとずつ、心の端っこが削られていく。

その上夫には「切羽詰まった感じで誘われないから本気かわからない」と言われてしまった。

なんてこった。

私は頬を上気させて、内ももを擦り合わせながら息を切らせて、「ねぇ、もう我慢出来ないよぉ…」と夫を誘うべきだったのか。
っていうかもうそれ、ある程度までセルフでやってない?それかやべぇ薬をキメてるに違いない。それに、そこまでして断られたら恥ずかしくて死ぬしか無い。自分が隠れる穴を掘ってマントルに辿り着いて死ぬ。

今日もきっと、私はふざけてしまう。心は削れてしまうけど、削れるのはできれば少しで済ませたい。

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