サンドイッチ日和〔花丸恵さんに捧げる一作〕

はなちゃんが、大きなパンを持って、ずんずんずんずん歩いて行きます。
おうちのほうに向かわずに、森のほうへと行ってしまいます。

なんで?

まるえはどうしても納得できずに、はなちゃんを追っかけています。
追いつきそうで追いつけない。
ぎりぎりの追っかけっこです。

やっと捕まえたら森奥の空き地でした。
はなちゃんはキョトンとしています。

まるえちゃん。
なんでわたしの後ろにいるの?
わたしはあなたを追ってきたのに。

私こそあなたを追ってきたのよ。
なんで森?
薄暗いわ。
早く出ましょう。

出るべき道がわかりません。
やみくもに歩いてたら、いきなりサンドイッチ屋さんの前に出ました。

おいしいサンドイッチ屋さん
サンドイッチ日和

という名前だそうです。

ほんとにおいしいのかしら。

とはなちゃんが言う。
はなちゃんは作るのも食べるのもすき。
興味を持ってしまったら、てこでもその場を動きません。
これは入るなー・・・

入ってしまいました。

中はこぎれいなカフェみたいな感じ。
なかなかすてきなつくりです。
ショーウィンドウに並んでるサンドイッチはどれもピカピカキラキラ。
でもそこに、こんな札もあったのです。

当店自慢のサイドイッチもおすすめですが、この奥に、当店もっともっと自慢のサイドイッチがあります

もっともっと自慢ですって!
行こう!

はなちゃんはもう駆け出しそうな勢いですが、まるえはこんなシチュエーションのお話を、こどもの頃に読んだことがありました。

ひょっとして、まずは手足を洗え、かな。

大当たり。
ライオンの蛇口の水場の適高のと低めのがあり、

当店もっともっと自慢のサイドイッチを上がっていただくには、まずはお手と御御足を洗っていただく必要があります

丁寧なお店だねえ。
流行り病もあるものねえ。

はなちゃんが洗ったので、まるえも渋々従いましたが。

ひょっとして、次はお風呂かな。

また大当たり。
男、女、の暖簾のかかった入り口が一つずつ。
そしてまた文章が。

当店もっともっと自慢のサイドイッチを上がっていただくには、ゆっくりご入浴いただく必要があります
湯上がりの浴衣はお持ち帰りいただけます

浴衣かわいいよ。
持って帰っていいんだって!

はなちゃんは目をさらにキラキラさせています。

だめだ。
これは絶対だめだ。

出よう!

まるえは強く言って、強引にはなちゃんを連れ出します。

やだまるちゃん、わたし、特別のサンドイッチを!!


何とか連れ出したとたん、

サンドイッチ日和

はフッとかき消え、あとにはココーンと、甲高い狐の鳴き声がしただけでした。




でね、わたし、あるふれっどで買ったおいしいでかブレッドを、そこに置いてきちゃったの。
全部まるえのせいだよね。

残念そうに繰り返すはなを、私は面白そうに見ている。
まるえは呆れた調子で言う。

ちゃっかり持って帰ってきた浴衣がどうなったかも言ったら?

そ、れは・・・

言いよどむはなであるが、私は答えも知っている。

大きな蜘蛛の巣だったのよね。

おかーさん!

はなはめちゃめちゃ不服そうに言う。
はなとまるえ。
私の宝。
本当にいいコンビだと思う。

それでも地球は回っている