東宝市川氏のインタビューから見える、庵野監督の語る「大人向けにしよう」の意味~シン・ゴジラで描かれなかった事~

「東宝はなぜ『#シン・ゴジラ』を庵野秀明氏に託したか~東宝 取締役映画調整部長・市川南氏インタビュー~」http://bylines.news.yahoo.co.jp/sakaiosamu/20160812-00061026/

このインタビュー記事がちょっとした話題になっているようだ。どちらかと言えば批判的意味で言及されているわけだが、その中心はこの一節である。「脚本作りも「大人向けにしよう」と、女性とか子どもとか意識しない、と言われて、こちらも腹をくくりました。」ここに「女性だって大人じゃないかベン図書いてみろ」みたいな批判が向いているのだが、この一節にはある種の「描かない事」が含まれている。別に庵野監督は「男性向けにしよう」と言及している訳ではなく、「女性」と「子供」を意識しないと言っているだけなのだ。前回のレビューでハリウッド的展開が好きな人には評価が低いだろうと書いたのだが、実際にこのインタビュー記事の後半でもろにこの要素に言及されている。それが次の一節だ。

「我々としては恋人がいたほうがいい、長谷川博己さんと石原さとみさんは元恋人にしましょうとか言ったんですけど、庵野さんはそういうのどんどん排除していって、人物たちのバックボーンは描かない脚本になりました。ハリウッド映画だと絶対そういうサイドストーリーとかあるわけですけどね。」

この一節が大きな意味を持つのは、ある種のグローバルヒットを狙う意味での「ハリウッド的」要素の根幹がヒューマンストーリーであり、恋愛要素だということは、以前に宣伝部に居たという市川氏にとってはある種の「自明に入れるべき要素」であったろう。実際に映画興行として、「女性にヒットする」というのは興行的に求められる「広告・興行」という点で自明視されている要素でさえある。

例えば、「第3回「映画館での映画鑑賞」に関する調査」http://research.nttcoms.com/database/data/001895/ を見ても、女性の動員が見込めた方が、男性の動員を図るよりも、「連れだっての鑑賞」や「口コミ効果」が見こみ易いことが解る(このアンケート記事の中でクドいほど言及されるのは「女性にウケる映画はヒットする」である)。そしてこのアンケートにおいて男性がアクションやSF・ファンタジーなどに高い値を示しているのに対して、女性が同等の数値を示した項目はヒューマンドラマであり、相対的に高い値を示しているのはラブストーリーである。酷く逆説的言い方をすると、「そういう要素を詰めることで動員を見込む」という広告・宣伝的要請に応えることが出来る可能性が高くなるということでもある。

例えば「アバター」などもラブストーリーが濃厚に織り込まれているし、「タイタニック」なども同様だ。これらの作品は扱う世界を描くだけなら恋愛要素は無くても描けるはずだが、感情移入の促進と動員要請としてそういう要素を寧ろ全面に出して宣伝し、そしてヒットした。「バイオハザード」でさえ、偽装結婚という要素を入れてまで、そういう要素を入れているのである。作品の主要素として全く不要であるにも関わらず、である。家族、恋人、親友といったテーマは「人」を描く上で用いやすいテーマであり、興行的要請として盛り込まれることが多いテーマである。ストーリーテリングとしても限られた時間で人物像を掘り下げる道具として、それらは用いられてきた。いわばハリウッドテンプレートとも言える要素であり、ハリウッドに限らず映画に限らずドラマとして描くとなると少なからず使われる要素なのだ。ハリウッドに限らず、というのは例えば「レオン」などもそういった要素があり、同じリュック・ベッソン監督であれば「フィフス・エレメント」なども同様で、フランス映画の主流の一つは間違いなくラブロマンスである。

ここから先は

3,235字

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?