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第34章 「化学」と「世界史」の話(?)

久しぶりですね。完全に。

完全に久しぶりです。

更新が滞りまくってるこのシリーズですが、理由としては主にADHDのせいです。

Twitterのアカウントも消しちゃって、もう引退したのかと思われていたかもしれませんが、一応ちゃんと生きています。

さて、なぜ久しぶりに更新しようと思い立ったのかというと、下記の本を買って読んで、書きたいことができたからです。

わたしごときが紹介するのもおこがましいぐらい有名な左巻健男先生の本です。

面白くないわけがない。

私はKindle版で買ったのですが、本屋さんだと1870円(税込)らしいです。

化学のコーナーにあるのか歴史のコーナーにあるのかちょっとよく知りません。すみません。

私は理科に苦手意識のある文系の人にも科学の面白さをできるだけ知ってもらいたくてこの学問シリーズを書いていたりするんですが、なかなか興味を持ってもらうのは難しいなと思っています。

方法論を試行錯誤している中で個人的に有効だなと思うのが「歴史に絡めて解説する」という方法です。

文系の人は歴史が好きな人が多いですからね。

で、それを体現した本が上記の「絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている」です。

タイトルもいいですね。

内容もすごく読みやすく工夫してあって、めちゃくちゃオススメです。

上記のリンクから買ってもらうと私にわずかばかりのお小遣いが入るシステムになっています。(それが嫌な人は別のルートから購入してください)

さて、本題です。

オススメするからにはこの本の問題点(私が問題だと感じた部分)についても触れないわけにはいかないでしょう。

なのでここから先はちょっと批判めいたことを書いてしまいます。

というか、ほぼイチャモンです。

左巻先生ごめんなさい。

さて、この本を読んでいて気になったのは書かれている歴史エピソードの信ぴょう性の点です。

科学を生業にしている立場としては、科学的におかしな、いわゆるニセ科学を流布されると腹立ちますよね。

それと同じで、歴史学者も嘘の歴史エピソードを流布されると腹立つと思うんです。

だから、教科書に載っていないような歴史エピソードを扱うときには、それなりにちゃんと参考文献を示しながら丁寧に語った方がいいと思うんです。

ちょっと具体的な話をしますが、あまり内容について書きすぎると著作権的にビミョーなので、1箇所にしぼります。

ちょうど良いことに下記のURLで内容が一部公開されているのでこの話にしましょう。

以下、一部を切り取って話すので、詳しく読みたい人はリンク先の記事を読んでもらうか、本を買ってください。

本の章立てで言うと、第5章の「ハイヒール・マント・香水」のところです。


ハイヒールの起源(?)

中世のヨーロッパはごっつい不衛生で、豪華絢爛なイメージのあるパリの王宮とかも酷かったという話の流れで下記のエピソードが出てきます。

ちょっと引用しますね。

十七世紀はじめにつくられたハイヒールは、汚物のぬかるみでドレスの裾を汚さないために、考案されたもので、当時はかかとだけでなく爪先も高くなっていた。なかには全体が六〇センチメートルの高さのハイヒールまであったという……。

いや、さすがにこれは嘘やろ。

センテンスに直接参考文献が示されていなかったので、Google Scholarを利用して自分で軽く調べてみたんですが、ハイヒールの起源はペルシア(現イラン)の騎兵が馬上で安定できるようにするための靴だったみたいです。

フランスの貴族のファッションとなったのが17世紀というのは本当みたいですが、当初は男性のファッションだったというようなことが書かれた文献が出てきます。

いや、だってさ、「スカートの裾を汚さないためにハイヒール」って普通に考えておかしくない?

スカートの裾をちょっと短くしたらええがな。

実際にどんなドレスだったのか、ちょっと参考にgoogleの検索でイラストを見てみましょう。

いや、裾、地面についとるやん…。

ハイヒール全然意味ないやん。

スカートの裾を汚したくなければ、汚物がないところ歩いたほうがいいよね。どう考えても。

はい、というわけでこれは嘘と認定してよろしいですかね。

根拠となる文献(できれば一次史料)をお持ちの方がいらっしゃればご連絡ください。訂正のうえ謝罪します。


マントで守ろう(?)

次にマントの話です。

また、二階や三階の窓から、しびん(寝室用便器)の中身が道路に捨てられるので、その汚物をよけるためにマントも必要になった。この頭上から降る危険のため、紳士は淑女が道の真ん中を歩くようにエスコートする習慣ができたと考えられる。

こんなことある!?

嘘でしょ!? 嘘すぎじゃない!?

いや、考えてみてくださいよ。

これから仕事に行こうかと道を歩いてて、天から糞尿が降ってきて

バッシャー!

ってかかったとしましょうよ。

「よかったー! マントしてたから助かったー! たえたー!」

ってならんよね?

「どういうこと? これどういうこと!?

夢であれ 夢であれ 夢であれよお願い!!」

ってなるよね。

そのまま職場行ける人間おらんよね。

一旦家に帰るよね。

そのままその日はもう外出ないよね。

肩に他人の糞尿を乗せたまま職場に直行できる人がいたとしたらメンタル強すぎるよね。

尋常の数倍じゃないですよ。異常の数倍です。

仮にそんなメンタル強い人がおったとして、職場についたら、職場の同僚が怒るよね。

「…え?なんでお前、肩にウンコ乗せて職場に来てんの?」

ってなるよね。

「いやー、来る途中に天から降ってきてさー。」

「いや、ちゃうちゃう。

なんでウンコついてるか聞いてるんちゃうねん。

なんでその状態で来てんの? って聞いてるねん。

めっちゃ臭いやん。クッサ!

え? 何? クッサ!

しばくぞホンマ。」

ってなるよね。

だいたい、捨てる方もそんなノールックで捨てへんよね?

普通は下に誰もおらんタイミングを見計らって捨てへん?

あるいは「今から糞尿捨てまっせ―!」って通行人に声かけるよね?

だいたい、捨てるにしても表通りに捨てるかな?

裏通りに捨てへん?

さらに言えば、そんな自由にあちこち満遍なく捨てたりせえへんくない?

たぶん、だいたい同じ場所に捨てるよね。

糞尿が降ってきそうな場所は地面を見ればおよそ予想がつくんちゃうかな。

なんか色々怪しすぎるよね。

そういう疑問点に目をつぶって、仮に天からランダムで糞尿が降ってくる日常だとしましょう。

マントでいける!?

その装備、守備力足りてなくない?

全然足らんよね?

うまいことマントにかかってくれればまだいいですよ。

たぶん頭とか首とかにもかかるやん。

「ぐはぁ!」ってなるやん。

傘さしたほうがいいよね?

どう考えても傘の方が合理的よね?

ということで、これも嘘認定。

根拠となる文献(できれば一次史料)をお持ちの方がいらっしゃればご連絡ください。訂正のうえ謝罪します。

実はこの本の巻末に参考文献が示されているので、この中に根拠となる資料があるのかもしれませんが、ざっと見たところ一次史料っぽいものは見当たらなかったです。

こういうちょっとしたことが気になり始めると、なんだか他のエピソードも怪しくなってきて素直に読めなくなっちゃいますよね。

ちなみに、中世のヨーロッパがめちゃくちゃ不衛生だったって話は本当です。

感染症の教科書なんかにも書かれている事実です。

私が気になったのは「ハイヒールとかマントのエピソード、それほんまなん?」ってところです。

ごめんなさいね。

変なイチャモンつけちゃって。

終わりに

さて、この記事で何が言いたかったのかといいますと

自然科学に関することでデタラメ言われると目くじら立てるのに、人文科学に関することはテキトーでもOKとはならんということです。

逆に、読む側としては、こういう「教科書に載っていない話」は全部を鵜呑みにはしない方がいいです。

とは言うものの、読書をして色んな知識を仕入れるのは楽しいですし、「教科書に載っていない話」って特別感があって面白いですよね。

「これ嘘かも知らん」といちいち疑いながら読むのもしんどいと思います。

だから、純粋にエンターテインメントとして楽しんで、頭の片隅に「嘘かも知らん」ということは留めておくバランス感覚が必要とちゃいますかね。

別に歴史に限った話ではないんですが、素人が正しい知識を得ようと思うなら、まずは高校の検定教科書を読むことです。

こういう本屋さんに並んでるような学問に関する面白エピソード本は、学習の動機付け、スパイスとして利用するのは大いに結構ですが、フィクションが含まれることに注意が必要です。

以上をふまえた上で、「絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている」は化学を身近に感じるためのエンターテインメント本としてめっちゃオススメです。

書かれているエピソードについて誰かに語りたくなったときは、

「左巻先生の『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』に書かれてた話なんだけど…」

と、ことわってから語った方が無難だと思います。

以上です。

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