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ディズニー+に入ったのでとにかく毎日映画を見て雑文を書く①:面を超えていく水平移動と立体的なもの──『モアナと伝説の海』

サブスクディズニー+に加入したので、できれば毎日二本以上映画を見て、雑な評論文を乗せていけたらと思っています。以降はまとめて公開になるかもですが。

『モアナと伝説の海』(2016)を観た。

選んだ理由は特にないが、この前金曜ロードショーで『プリンセスと魔法のキス』(2009)を見たばっかりだったので、「ディズニープリンセス」ものでまだ観てないやつを観ようと思った。

あらすじは以下の通り。

この物語はポリネシア諸島をモチーフとしており、(タヒチのボラボラ島を元にしたとされている)モトゥヌイ島という架空の島の村長の娘モアナを主人公とした「貴種流離譚」的な話である。島の伝承によると、かつてラフィティというすべての生命を生み出す女神(女の人が寝そべっている様に見える形をした島)がおり、この女神の力によって豊かな自然を享受できていたのだが、1000年前に半神マウイがその力の源である宝石「心」を盗んでしまい、更に「心」が海の底に沈んでしまったことによって自然が荒れてしまったのだという。モアナの祖母によれば、誰かがマウイを見つけて彼とともに「心」を還さねばならないという。この伝承を聞かされていた主人公のモアナは幼い頃より海の向こうを憧れていたが、「珊瑚礁を超えてはいけない」という島の掟を守る父によってその願いは阻まれてしまう。しかし、モアナが大人になったある日突然島の植物が枯れはじめ、モアナは海に出ることを決意する。

そういうありがちな話である。

他の「ディズニープリンセス」ものと異なるのは、物語が半神マウイとの友情とモアナ自身の主体的決断に軸が置かれており、プリンセス-プリンスのような構図が一切ないことだろう。モアナは自身が「プリンセス」と言われることに異を唱えている。

しかし、それもどうでも良い。この映画で最も重要なのは平面(面)と3DCG(立体)の対立とそれに付随する水平-垂直の運動だろう。絵巻をもって語られる伝承。伝承を聞かされた部屋は怪物の刺繍が入った布織物で囲まれており、他の子供達が騒いでいる中幼いモアナはこの織物のカーテンを捲って浜辺に行く。また、成人になった村の男がタトゥーを入れる描写やマウイの全身にも見られるタトゥーの平面に描かれた過去の物語と現状進行する3DCGの映像との対立。祖母がもっていた船を隠していたのは葉っぱのカーテンであった。モアナはカーテンを超えていく。映画という長方形に疏がってどこまでも水平方向に進んでいくのだ。モアナは村長が先祖代々(垂直に)積み上げてきた石を置いて村長になることを拒絶し、海に出る。「空と海が出会うところthe line where the sky meets the sea」という次なる平面を目指して。或いは、超えられるべき最後のカーテンを目指して。しかし、水平線という平面と水平に広がる水に規定された快晴の海のイメージとは異なり、実際の海は波が(水平線の方から)押し寄せる3次元的空間である。モアナは一度目の渡航に失敗する。失敗したモアナは更に別の葉っぱのカーテンを超えて、先祖が残していた船を見つけ、滝のカーテンを超えて海に向かう。帆で「追い風うけ漕ぎ出 the wind in my sail on sea stays behind me」していく。しかし、やはり海は甘くない。壁の向こうから波や雨雲がやってくる。霧が船に向かってきて、そこから海賊が出てくる。実はモアナの船は画角的にはほとんど動いていない。進みながら止まっているのだ。船という点に対して障害物が向こうからやってくる。面を超えていこうとするモアナに対して3DCGがそれを阻む。一つの面(カーテン)を超えて、別の立体と出会い、それを経てまた次の平面へ向かう。立体は障害物としてあるだけではなく、船を押し出す追い風にもなる。マウイに騙され、岩戸(面)を閉ざされたモアナがマウイの石像(立体)を登ることで洞窟から抜け出したように、立体は障害であるとともに平面を超える原動力でもある。逆も然りだ。マウイは自分の体に入ったタトゥー(面)の中にいる小さい自分と和解することで、初めて自在に動物に変身できる能力を駆使して大空を飛び回ることができるようになり、進行方向にある岩の障害物(立体)を砕く。モアナたちを助けてくれるにも関わらず、厳しい障害として立ちはだかる海の波も正に障害かつ追い風の典型だろう。
水平のモチーフに対して、垂直のモチーフは海という平面に飛び込む際に用いられる。深海にある魔界に入るため、モアナたちは聳え立つ崖の塔を登り、その中心部から海へ飛び込む。海面を超えると、海中を抜け、3DCGで作られた様々な怪物のいる魔界に到着する。ここでは水平と垂直が界面を介して逆転しているのだ。

このような面と立体、水平と垂直の物語として『モアナと伝説の海』は大変面白い映画だった。

紙のような素材の上に流れる二個目のエンドロールにて、最後に出てくる刺繍がゲーム世界を元にした3Dコンピュータアニメーション映画『シュガー・ラッシュ』の主人公ラルフだったことも勘ぐらずにはいられない。そのぐらいこの映画は面と立体を強調している。

さらにいえば、面から生み出される立体の典型として作品に現れる波が、モアナが踊るフラダンスの表現と合致しているのも偶然ではないだろう。ダンスはこの作品において、面が立体になる境界線のように扱われている。フラダンスを踊るモアナに対して、マウイはハカのように自分の体をドラミングするダンスを踊るが、これもモアナが先祖の船を発見した際に先祖の記憶を継承する作業としてモアナが叩いた太鼓と呼応していると言えるだろう。太鼓やドラミングは面を用いて音響という立体的なものを生み出す技術である。このような面から立体へ、立体から面へ(こちらはタトゥーや刺繍など)と絶えず還元されていく運動がこの映画では表現されている。

歌うこと、踊ること、手書きからCGへ。「ディズニープリンセス」に刻まれた歴史の運動がここにある。

これを物語論とつなげて話すことも可能だろうが今は敢えて表層にとどまろうと思う。

このような形で、できれば毎日雑文を載せていけたらと思っています。


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