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目パッチリで肌ツルツルのオッサンになった話

以前に「街角の証明写真ボックスで写真をとったら色々画像補正機能がついていて驚いた」というような話を書いたことがあった。その時は、撮影の時に『男前+1, +2, +3』などの中から希望のレベルを選ぶとそれなりにちょっと男前になるという機能だったのだが、ま、結果的にそれほど男前にならず、「人間、何事も期待しすぎてはいけない」と言う教訓を得たのだった。

証明写真だったからなのかもしれないが、その頃は基本的には肌の色をちょっと濃くしてワイルド感を増す程度の加工で、顔の造作に手を入れるような内容ではなかったように思う。

その時書いたものを今読んでみるとやや時代を感じさせるほのぼの感がある。

しかしその後、AIエーアイ の波は音もなくやって来た。その技術革新により、最近ではもうスマホで撮る写真でもフィルターによる加工が当たり前になってきた。昔のプリクラのような不自然な加工ではなくちょっと見ただけでは良く判らない自然な仕上がりだったりもする。しかもその修正具合のパラメータもいじれるようなのだ。きっと女性の方々にとってはもはや常識なのだと思うが、今日はそんな話なのである。

***

私、こういうバカな文章を書いている時間以外には真面目に仕事をしたり、英語普及関係の集まりに顔を出したりもしている。コロナが落ち着いてからは再び対面の打合せやイベントも増え、またそんな場でご婦人の方々に会う事も増え、そんな集まりの時には数人での集合写真を撮ったりすることもある。

しかしある時期から、誰かが撮ってくれた写真が送られてくるとそこに映る自分の顔に違和感を感じることが増えてきたのである。特に女性が撮ってくれた写真である。

自分のスマホで撮った写真は問題なく、見慣れたいつもの哀愁漂うオッサンの顔なのだが、ご婦人方のスマホで撮ってもらった写真が送られてきた時に自分の顔を見ると、なんというか、言ってみればちょっと気持ち悪いのである。いや、一緒に写っている周りの皆さんの顔は違和感がないのだが、自分の顔だけなんか変な気がするのである。

写真は、イベントが終わって家に帰ってからテキストメッセージや SNS経由で送られてくることが多い。そしていつの頃からか、そうして受け取る写真の中の俺は、なんとなく目がクリクリして、肌が綺麗になってきたのである。なんなら口元も薄ピンクでヒゲも薄い。

(もしかして最近毎日黒酢飲料を飲んでいる俺の身に、何か奇跡的な変化が起こっているのか!?)

最初はそんな事を思って、改めてお風呂タイムに鏡を見つめてみたのだが、そこに映った俺の顔は全然目がクリクリしてないし、肌もかなりくたびれている。

(お、おかしい…… 鏡が曇っているからか?)

鏡にシャワーを掛けて曇りを取ってもう一度見てみるが、そこにはやはり年相応の俺がいる。

そこで風呂上りの湯気の出た状態でもう一度その送られてきたスマホの写真を見てみる。そこで気づくのである。

(やっぱりこれ加工されてんだな)

ちょっと若返っている感じもするが、良く見ると数年前の自分と言う感じでもないのだ。しいていえばこの世界ではないパラレルワールドにいる、美容に気をつけて毎日コラーゲンを飲み、また高須クリニックで深めの埋没法を施術して頂いた俺って感じなのである。似ているのだがどうも違う人間である。

(きっとこれはこのスマホの持ち主の方が入れているアプリによる画像加工の仕業なんだな……)

写真に写っている他の方々はもともと綺麗な人なのでその変化は微妙であまりわからないようなのだ。おそらく俺のようなオッサンの顔が加工されるとその効果が数倍レベルで発現するのであろう。

小顔効果も入っているようであるが、私に適用するとちょっとやりすぎ加工になるようで、ある時の写真は大谷翔平のようなプロポーションになっていた。明らかにおかしい。

しかし、それに気が付いてから改めて過去の写真を見直してみるとなんとなくその修正の傾向が判ってきた。そこである時、知り合いの女性に「あのさ、この写真ってさ……」と聞いてみると、もはやフィルターを掛けずに写真を撮る方が少数派だと言うのである。

そうなのか。まあ、そうだよなあ。そこに、あきらかに美味しくなる調味料が置いてあったらかけるよなあ。それが人情というものだろう。

***

しかし、仕組みはわかった。問題は、同じ加工の設定が画面に写る全ての人に適用されるところである。(*注)

じゃあ、俺のスマホで撮れば良いのではないかと思ったが、しかし逆に考えると俺の無修正のスマホで撮った集合写真をどこかに公開するというのはもう無礼な時代になったのかもしれないなあ。加工なしの方が少数派と言っていたもんなあ。

そんな事を考えているうちに、次の機会は直ぐにやってきた。ある集まりの時に集合写真を撮ることになり、一人の女性がお店の人にスマホを渡したのである。意識高い系の女性である。きっと強力なフィルターを搭載した自撮りアプリが発動しているはずだ!

俺はまた目のぱっちりした微妙なオジサンとして写真に収まってしまうのか!?

そんな俺の頭の中に一つのアイデアが閃いた。
(そうか! 逆算して相殺すればいいんじゃないか?)

そう、目がぱっちりするならば、最初から目を少しどんよりさせてはどうだろうか。

俺は「はい、撮りまーす」という店員さんの声に合わせて、ググッと目を細めて見たのである。そうなのだ。加工後に普段の顔に戻るように計算し調整したのである。咄嗟の対応としては我ながら上出来だった。

(今のは行けたんじゃないか。これが成功していたらどこかで発表できるのではないだろうか。イグノーベル賞ものかもしれない)

そして家に帰り夜中に SNS でその写真を見たのだが、それは想像とかなり違う出来だった。

その写真に写っていたのは、単に目つきの悪い、薄化粧で体格が良い二丁目のママだった。その目つきのせいで一見ぼったくりバーのママ風である。今にも「どんだけ―!」とか言いながら迫って来そうな仕上がりだが、今回はお化粧パラメータが強めだったようである。

そうか目は小さくなるものの、メイクはされるんだな。

しかし俺はそれに懲りず、その後も集合写真では思いっきり口を開けて笑ってみたり顔の角度を変えてみたりと色々試してテクノロジーにあらがってみているのだが正解はまだ見つからないのである。


(了)

(*注)聞いたところ、アプリは日進月歩で進化しており、最近では誰を加工して、誰を加工しないかなど選べるようなものもあるようです。

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