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なぜキム・ジュウォンに惹かれるのか?  (それはヒョンビンだから、だけではない👋)ー韓国ドラマ「シークレットガーデン」から

(写真はYouTube から転載)

キル・ライムを傷つけた自分の言動を、繰り返し繰り返し悔やむ姿になぜか心惹かれる、からかな?

<はじめに>

何故か、この主人公キム・ジュウォンという人物が気になった(ヒョンビンが演じていたから?もちろんそれもある。いや、それしかないか、な?😅)だから、この主人公キム・ジュウォンという人物についてだけ語りたい。

多くの「感想」欄にあるような「容姿端麗、頭脳明晰、完璧男」というだけの単純な人物ではないような気がして。そう思ったのは、キル・ライムを激しく傷つけた後の彼の姿である。繰り返しその出来事を思い出しては苦しんでいる。

尊大で不躾だけではない、見えていない部分があるのではないか。図らずも第10話でキル・ライムが、

「心の中が知りたくて。見落とした本当の気持ちがわかるかも」

と言って彼と同じ「不思議の国のアリス」を読み始める。彼からは我々をそんな気持ちにさせる何かを感じるのだ。

<私の思うキム・ジュウォンという男>

ドラマ冒頭、尊大で無礼な男として登場する彼は、「容姿端麗、頭脳明晰、完璧男で周りに敗北感を与えるほど」と言われている人物だ。しかし、最終話の最後まで見終わってみると、彼の内面はそんなに単純で傍若無人な人物ではないような気がする。彼の心は、もうちょっと複雑で繊細で、深い傷さえ抱えている。

最終話終盤で彼は涙を流し、少女のキル・ライムに「ごめん」を何度も繰り返した後、気を失い、記憶も失う。だが、心の中には「何か大切なものを失ったような思い」が残っている。

身体的には後遺症の閉所恐怖症でエレベーターにも乗れない。最悪、心臓発作までひき起こすほどだ。うつ病も患ったようで、薬が手放せない。週2日しか働かないのは恐らくストレスが起きないよう、心身の安定を保つためだろう。

彼はそのことをひたすら隠している。だから傷を負った彼の心は、尊大な表向きの彼と違って、繊細で内省的なのではないかと推測する。

彼の心の奥には封印したあの事故の記憶ー自責の念、良心の呵責ーが存在している。彼はそれを自覚してはいないが、ライムを傷つけたことを長く引きずって何度も思い出して苦しむのは、彼の潜在意識がそう反応するからだろう。

繰り返してしまう自分の愚かさを悔いてもいるようだ。だから傷つけた時の品々は全部保管していた。あたかも自分への戒めのように。

でもお見合い相手の女性への不躾な態度に対しては、全く意に介していない。それは彼の心の琴線に触れない人種だからだろう。彼の心はアンビバレントambivalentな状態で揺れ動いている。

尊大で不躾な自己とそれを感じている内省的な自己。どちらも彼の性格の一部ではあるのだろうが。尊大な自己はたびたびオスカーに糾弾されて、自省している。

「自分の損得しか考えず、人を平気で傷つける。それがお前の生き方であり、人格だ」と(でもオスカーは、キム・ジュウォンの優しさを十分知っている)

34年間強圧的な母親に人生を支配されて、そのことに疑問を抱くこともなく、母のいい子として生きてきた。結婚はビジネス、恋愛はホルモンの病気と表面的には豪語してはいるが、実際そのように割り切った生き方ができずにいる。

だから見合いは自分の手で潰している。ある意味、彼の尊大な言動は、自分の本心を悟られないよう隠すための武器のようにも思える。

ドラマでは、彼が一人物思いにふけって過ごすシーンが度々出てくる。「不思議の国のアリス」を手にして。それは現実で偽悪的に振る舞っている自分から、素の自分ー本当は素直で優しい、少年のような自分ーに戻る時間なのではないか。

彼には心の中に押し殺した「迷える子羊の様な少年」がいて、自分の生き方や自分という人間に思い悩んでいる。

そんな彼が、スタントウーマン、キル・ライムのスタントを見て、彼女に惹きつけられた。まるで別世界に迷い込んだ少年のように、心がときめいた。「不思議の国のアリス症候群」。

心の奥にある感情が共鳴した。これぞ「恋に落ちた」瞬間だろう!。それ以来彼女への思いはつのり、妄想の日々を送る。でもその思いはキル・ライムの岩盤のような心にはね返され容易に受け入れてもらえない。

それでもただただ一途にライムを追い求める。その健気さ、受け入れてもらえない切ない思いが見ているものにも伝わってくる(そう感じるのは私だけ、かな?)

拒まれても押し返されても彼女につきまとう姿はほぼストーカー。こんな切ない気持ちの彼を見ているのに、度々母親が登場してムードをぶち壊しにする。切ない素敵な恋の話が、下世話で醜い母親の言葉で台無しにされる。ああ、痛ましい!!!

<キル・ライムの言動がキム・ジュウォンを変えた⁈、と思う>

キム・ジュウォンのライムへのアプローチは実に不器用で、ライムの心を頑なにしてしまった。恐らく二人とも恋愛初心者。だから優しさの表現がうまいオスカーに対するライムの態度は全く違っていた。

感情をうまく表現できないキム・ジュウォンの不器用さもさることながら、ライムの虚勢が更にねじれた関係にした。恋愛初心者によくありがちなパターン。

だから彼は、第5話、助けに来てくれたことをライムがストレートに感謝した時、とても戸惑っていた。でも、うれしそうだった。だが、その後の人魚姫発言はライムにとって相当ショックだったと思う。


<キム・ジュウォンの心に刺さったライムの言葉>

①「謝って何が悪いの。私は100回だって謝るわ。謝ることができる機会に感謝してるの。それが私なの。でも、あなたのせいで変なうわさをされて、今後さらに謝ることになりそうだわ。・・・私に必要なのは独り善がりな社長の善意じゃないの」

英語訳は、”That’s how I make a living. I’m saying that I don’t need the philanthropy of an immature department store CEO who is so eager to look good.”(「私はそうやって生きてきたの。自分をカッコよく見せたがっている青臭いデパート社長の善意なんか必要ないの」)

キム・ジュウォンは、自分をカッコよく見せるために仕組んだ試みを見透かされて、ライムが発した言葉で、屈辱感を味わい、打ちのめされたはずだ。

自分の尊大さ、他者への配慮のなさをズバリ直撃されて、彼は長いこと考え込んでいた。でも彼女を好きな気持ちは消せないーあの時、垣間見た優しい表情の彼女が!

現実逃避をして、社会から距離を置いて生きているのは傷つくことを恐れているからだろう。彼が常に攻撃的なのは自分を守るためだろう。そんな彼がコテンパンにされてしまった。

その後の彼の言動、ライムに残酷な言葉、蔑んだ言葉を浴びせるのは、彼のアンビバレントな心がなせることだー彼のプライドを傷つけるライムは、同時に自分が恋い焦れている相手なのだ。彼は自分を理解しようとせず、受け入れてもくれないライムに怒り、蔑みの言葉をぶつけて、ライムをひどく傷つける。

好きでたまらない人なのに、いや好きだから取ってしまう行動。怒りにまかせて言ってしまったことで、何度も苦しむ。オスカーにそんな傷口の一つに触れられて激怒するほど。内省的な彼は忸怩たる思いに何度も苦しむ。

②「あなたに言われて考えてみたけど、私は人魚姫にはなれない。何故だと思う。人魚姫は王子を愛してたの」、英語訳では、

”I don’t deserve it. Do you know why? At least the little mermaid loved her prince”( 私には人魚姫なる資格がない。何故だと思う。人魚姫になるには、王子を愛していないといけないの)

 済州島で「自分の人魚姫になって泡と消えるのだ」とキム・ジュウォンに言われ、屈辱感で平手打ちをくらわせたライムだったが、「王子を愛していなければ人魚姫にはなれないのよ」と「愛」に言及することでそんな傲慢な彼に一矢報いた格好だ。

この言葉を告げられた時のキム・ジュウォンの表情は、何かに打たれたようだった。彼の心の奥にある思いが疼いたからではないか。人魚姫の物語を自分の立場から「愛人物語」と蔑んでいた彼だから、人魚姫の立場に立ってその心を思いやることはなかっただろう。

だから「人魚姫の愛」について言及された時、彼は不意をつかれたように立っていた。今まで「愛はホルモンの病気」と豪語していた彼だが、そんな愛を求めているもう一人の自分がいることに気づいたのではないか、と推測する。

この時、ライムは明らかに彼に好意を持ち始めていたと思う。でもライムの心を理解しないキム・ジュウォンの言動に、彼女の悲しい思いが表情に現れていた。

ライムが「愛」について言及したことで、「人魚姫」という言葉が、「愛に殉じた人」との意味を持って、とても気高いものに変わったと感じた。

ー「人魚姫」は、このドラマの重要なモチーフになっているー

ドラマ終盤で、ライムは人魚姫の物語の最期を綴った一文をキム・ジュウォンに残す。「人魚姫は海に身を投げ、泡となって消えた」(ライムからキム・ジュウォンへの「愛」の言葉である。「あなたを愛してた」と)

③「その通りよ。でもね、先輩は忘れない。この先輩も覚えていてくれる。この人も私を覚えてる。私も仲間を忘れない」(「数人の記憶に残って何になる?」とキム・ジュウォン)

「数人?あなたにそんな仲間が何人いるの?あなたの代わりにケガをして、お前が無事ならと言ってくれる仲間は?だから追い返したの。あなたが見下そうとも私たちはこの道を選んだ。心が熱くなれる仕事だから続けている。何様のつもり。仕事を評価されたくない」

キム・ジュウォンがスタントマンの仕事に対して言った蔑んだ言葉に対して、ライムが前述のように反論する。この言葉を言われた時も、彼は明らかに衝撃を受けていた。この時、自分の尊大さを指摘され、他者への配慮が欠落していたことに気づかされたに違いない。

④「そんなに好きなのに私との未来は泡になるのね。つまり、私たちはどれだけ愛を育んだとしても跡形もなく消える関係なんでしょ」

「泡になるために美しくて幸せな愛を育む女がいると思う?終わりを知りながら恋愛を始める女はいない。だから私たちは前に進めない」

これがライムの考える「愛する」ということだろう。キム・ジュウォン自身が人魚姫になるから付き合おうと言ったことへの彼女の返答だ。キム・ジュウォンの切ないほどの求愛にも応じる決心がつかないライム。キム・ジュウォンはライムの返事が聞きたくてライムの元へ通い詰めるがライムにはためらいがあって返事ができない。ここは双方共に切ない思いが伝わってくる。 

                  ***   
    
<キム・ジュウォンのやさしさ>

魂が入れ替わると言う事態は、二人の関係を急速に近づけた。まさに「他者の靴をはく」ことで、お互いに対する理解が深まった。キム・ジュウォンはライムの傷だらけの体に衝撃を受け、孤独に生きてきた彼女の人生を知る。ライムもキム・ジュウォンに傷つけられた時の品々を発見し、彼の本心が気になる。

二人が元の自分に戻った後、キム・ジュウォンがライムを訪ねてきて抱き締めるシーンがあった。今まで自分の前で強がっていたライムが一人で生きてきたことを知り、彼女への愛おしさがつのり抱きしめたかったのだろう。

「抱きしめにきた」(このシーンはとても素敵だ!)

彼は後のシーンでも同じことをする。「料理得意なのか」と聞いた時、ライムが「母親がいなかったから」と答える。すると彼は「寒い」と言ってライムを抱き寄せる。ライムは照れたようにはねのけるが、彼は再び抱き寄せる。本来の彼は、こんな優しさを持った人なのだと思う。

そして、ライムと二人残った山荘で、ライムを抱きしめながら長いおまじない「金寿限無 亀と鶴・・・」を唱えて苦しそうに自分を抑えている姿は、ライムを大切に思う彼のやさしさだろう。

以前、ライムに「一度抱かせてくれ」と屈辱的なことを言ったのは、彼の本心ではなかったはずだ。恋愛に臆病な彼のパフォーマンス(?)ライムの平手打ちはむしろうれしかったかも。


<キムジュウォンが決心した時>

「この世には、知らない方が幸せなこともある。私にとって、あなたはその一つよ。素敵な人を探して。お母さんのためにも」

ライムにこう言われた後のキム・ジュウォン。従兄弟のオスカーに、彼女に本気になってしまった自分のことを吐露している。

だが、彼のスタンスは依然「人魚姫」で、いつか泡となって消えると言う考えは変えられずにいる。愛に対して懐疑的で臆病なキム・ジュウォンは、打算的な考えが捨てられずにいる。そんなどっちつかずの自分のずるさと葛藤している。

「自分と同じタイプの女と結婚しろ。ライムはお前にはもったいない」と以前オスカーに言われた言葉は彼の心境をズバリ言い当てていた。

一方、愛に対して打算のない純粋な気持ちのライムはそんな彼の誘いには乗らない。乗れない。終わりのある関係だとわかっていて彼との関係など結べない(でも彼女の心はもうキム・ジュウォンを好きになってしまっている)

キム・ジュウォンが選ばなければならない時が来た。

母親に「あなたの敵は私ではなく、自分自身だ」と言われ、彼女を選べば今享受しているものは全て失うと言われる。ライムからも「私の世界から出て行って欲しい。自分のおとぎの世界に戻れ」と宣告される。

ライムと連絡が取れない時間が過ぎる。その間、彼は何を思っていたのか。自分が人魚姫になると言ってからパーティーで答えるまでの間にキム・ジュウォンの心にどんな変化が起きたのか。明確に表現されていない。

連絡が取れなかったライムが着飾って、自分のデパート主催のクリスマスパーティーに現れた時、彼は驚きと共に不安を感じた。ライムがシンデレラのように消えてしまうのではないかと。だから開口一番に確かめる、別れを言いに来たのかと....。

キム・ジュウォンに求められていたライムの返事は、「どんなにつらい思いをしてもあなたに会いたい。でも人魚姫になるのはいやだ。自分は人魚姫にしかなれないのか」と。

そして、それに応えるようにキム・ジュウォンも自分の思いを告げる。周りを憚ることなくライムにキスをするキム・ジュウォンは、そのことを態度で示したのだろう。

二人の思いを確認し合った後、キム・ジュウォンはライムの手を握り、「手が握りたかった。こんな簡単なことなのにやっとだ」と言う。

お互いの心にもっと素直だったら、こんなに傷つくこともなかったかも知れないのに。でも二人の心の成長には必要な時間だったのかも知れない。

<キムジュウォンの自立>        

キム・ジュウォンは、撮影中の事故で脳死状態になったライムが事前に残した書き置きを見つける。それは人魚姫の最期を記したものであったー泡となって海に消える・・・。「人魚姫は王子を愛していたの」ライムの言葉が蘇り、ライムの愛を感じ取り号泣する。

キム・ジュウォンは自分の命を捧げることまでする。ここまで彼を変えたのは、やはりライムの存在だろうけど、彼がもともと持っていた本質のようにも感じる。そしてファンタジックな展開の後、二人は元に戻り愛を確かめ合う。

最後、彼は「息子であることをやめ、ライムの夫として生きること」を母親に宣言する。母親の呪縛から解き放たれた彼からは、ため息が漏れた。やっと自分で決断した人生を生きることができる。

おとぎ話にあるように、「いつまでもいつまでも幸せに暮しましたとさ」と言える人生になっただろうか。

<最後に>

ヒョンビンの涙の演技は実に美しい。「愛の不時着」第8話でユン・セリがさらわれた時に流した涙が印象的だった。こんなにもきれいに涙を流すなんてと。

このドラマ「シークレットガーデン」でも美しい涙を見た。最終話、葬儀会場で見た少女がキル・ライムだったことに気がついた時、たった一筋の涙を流す。涙が目からハラリと落ちて頬を伝っていく。その様子に見入ってしまった。本当に素敵な俳優だと思う。

最後に、ここまで書いたけど、韓国語のできない限界を感じている。日本語訳と英語訳の比較をしながらその時々の心情を押しはかるのだが大きな誤解をしているかもしれない。そんな後味の悪さがいつも残る。だから、この記事はあくまで「私の」キム・ジュウォン評である。

<追記>

このドラマは、12年前の作品だ。キム・ジュウォンを演じたヒョンビンも若い。「12年前なら許せるけど、今見ると古臭くて見られない」「設定が定番すぎてついていけない」「魂の入れ替わりしか面白くない」とか、現在の評価はあまり良くない。当時は高視聴率をたたき出したそうだけど。やはりドラマには旬があるのだろう。

でも、今まで韓国ドラマには全く興味のなかった人間で、「愛の不時着」他数作品しか知らない私には、そのような点はさほど気にならない。

このドラマを見始めた時、「愛の不時着」のリ・ジョンヒョクのイメージが強すぎて、ヒョンビン演じる主人公に対して「あ、やっぱりやめておこう。ちょっと、見られないかも」と思ったものだ。

魂の入れ替わりは、受け入れ難い設定だけれど、あれだけ出自の異なる二人が早急に理解するためには必要な仕掛けだったのかなと解釈した。さもなくば、延々とストーリーを長引かせなければならなかっただろうから。

「他者の靴をはく」ことで、お互いを理解するための手っ取り早い手段だったと思うことにした。実際このハプニング以降、二人の距離はぐっと縮まった。少なくともキム・ジュウォンは傷だらけのライムの体と独りぼっちの人生を知ったことで、彼女への思いがより強まったはずだ。

このドラマに登場する彼の母親は、わたくし的には必要なかったと思っている。あんな時代錯誤的なセリフを言わせることでドラマの品位を落とし、下世話な作品にしてしまったと思っている。このドラマの核心は彼の母親との戦いではなく、キム・ジュウォン自身の自立と自己覚醒ーエンパワメントーであると思う。だから母親の存在は無視したい。

以前見た「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」も母親が醜悪だった。年下彼氏が問題という設定も感情移入できなかった。二人のシーンはすごく素敵だったが、あまりに辛すぎてもう一度見たいとは思わない。でもこの話の主題もヒーローの自立とエンパワメントの話という点では共通していると思う。





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