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すばらしき世界

すばらしき世界を観た。
仕事終わり、中華料理屋で麻婆豆腐を食べ腹を満たし、レイトショーを観るべく映画館へ向かった。西川美和監督×役所広司という沈むはずのない大船に乗った気持ちでどかっと席に座って、期待に胸を膨らませた。

“いま、胸が引き裂かれるみたいに痛い。
帰りの道中、駅のホーム、終電電車のまばらに埋まる席のすみっこで大声上げて泣きたくなった。
大人になったわたしはコスモスがどんな香りがするのかすっかり忘れてしまったから、道端に咲いているのを見かけたら人目も憚らず嗅いでみたいと思う。
空に浮かぶタイトルをしばらく忘れられそうもない”

Filmarksに載せた感想。
ネタバレになってしまうので多くは書かない(あらすじとか書くの苦手だし)。少なくとも休みの前日に浮き足だって観に行くような映画ではない。すっかり疲労困憊して謎の頭痛に見舞われ、鞄に入れてあるはずの鎮痛剤も見つからず帰りの電車の中で途方に暮れた。痛みと疲労と主人公の三上を想って大泣きしてしまいたくなった。
大した映画ではなかったらこんなことにはならず、帰り道では映画のことなどすっかり頭の中から消え、明日の昼ごはんのことでも考えながら帰ることができる。足取りはもっと軽いだろう。
わたしの表情が暗いのはこの映画が素晴らしかったからで、すっかり魅了されて脳内を占拠されてしまったからだった。

レイトショーだったこともあり、わたしと一緒に観ていた人たちは数人だったが、きっとみんながみんな三上の幸せを願っていた。三上が笑っていると安心した。笑顔のまま終わってほしいと思った。縋るような気持ちで画面にかじりついた。
スタッフロールが流れ始め、数人の鼻を啜る音が聞こえた。わたしもマスクの中が鼻水やら涙やらでぐしゃぐしゃだった。胸が痛くて痛くてしゃくりあげて泣きたくなったが恥ずかしいのでぐっと堪えた。喉がグゥと鳴った。結局、スタッフロールの途中で席を立った。映画が終わり、照明がついてさぁ帰ってください、と切り離されるあの感覚が耐えられないと思ったから。
映画館を出て風を切って歩く。外の温度は心地よかった。人はまばらで開いてる店はほとんどない。きゅうにどこか知らない土地へ置き去りにされたかのように寂しくなって、唇を噛み締めた。

こんなにも素晴らしい映画に出会えたことを幸せに思う。
悲しくてつらくて心に影がかかるけど、人の人生で一喜一憂できるうちは幸せなんだと思う。邦画、捨てたもんじゃない。出会えてよかった。

2021.2.24

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