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理想の引き際をデザインしたい

野球にはあまりあかるくないし、どちらかというと中日ドラゴンズ推しのわたしなのだが、それでもぐっとくる動画を目にした。

千葉ロッテマリーンズの場内アナウンス担当・谷保恵美さんが引退されるというニュースだ。

谷保さんは33年間、皆勤賞で場内アナウンスを担いつづけ、その試合数は2,100試合にもなるという。

電車で通勤されていたとのことで、自分にはどうにもならない遅刻のリスクだってある。
のどと体調の管理も欠かせないはずだ。
左手の薬指には指輪がはまっていたから、ご結婚されているのだろう。もしかしたらお子さんもいらっしゃるのかもしれない。

それでも33年間、一度も休んだことがないというのだから、とてつもないことだ。
自分の体たらくが恥ずかしくなる。


すこし調べたところによると、定年退職というわけではないらしい。
場内アナウンスの職を辞することは以前から考えていて、それが今年になったのだそうだ。
次のやりたいことに向けて。


場内アナウンスのお仕事についてわたしはよく知らない。
昨シーズンひと足先に引退された読売ジャイアンツの場内アナウンス・山中美和子さんの動画も観たところ、試合中もさまざまなデータをチェックして、あたり前かもしれないけれど一瞬たりとも気が抜けないふうにわたしの目には映った。
間違いが許されない、代わりもいない。
ものすごいプレッシャーだろうと想像に難くない。

でもその姿は公に出ることはない。
それどころか彼女らの声は球場の「風景」と化していて、意識して耳を傾けられることすらないかもしれない。

つらかったことだってあるだろうし
仕事が嫌になったこともあるかもしれない。

それでも、完全なる裏方として33年間、勤めあげた。


最後の試合後にはセレモニーがおこなわれ、観客席からは割れんばかりの谷保コール。
すてきだよね。


ただわたしはセレモニーやコールに惹かれたわけではなくて。
自分のキャリアを33年も積み上げ、次のステージに行くために勇退したことだ。

今は終身雇用も崩壊しているし、そもそもわたしはフリーランスだし、職を転々としたってマイナスにはならない時代・属性だろう。
でもひとつの仕事を長く続けることは、うつくしい。

ライターという職業柄、もしかしたら数年後にはもう「ライター」を名乗っていなくて別の職業に移行している可能性は否定できない。
ただ、ライターを辞めてパン屋さんになりますね、というのと、ライター業を礎に世の中にあわせて変化していくのとでは、やっぱり違う気がする。

パン屋さんを始めるのが決して間違いではない。
どちらも、わたしだけの人生のストーリーには変わりない。
ただパン屋さんになるのが短編集が集まった連作長編だとしたら、ライター業から変異していくのは切れ目のない長編小説になるだろう。

続けてはじめて見えてくる世界がある。
ぼちぼち、そういう連作長編をつむいでみたいと思うのだ。

今までいろんな「初心者」を経験してきた。
料理初心者、筋トレ初心者、書道初心者、ライター初心者…
谷保さんを見て、これからはなにかひとつ「ベテラン」なるものを目指してみたいな、と。
そして、さらに別のステージに進むために、一線から退く。
そんなキャリアと引き際が、すてきだ。


スポーツ選手なら、ケガで泣く泣く引退を決意することもあるだろう。
でもわたしは仕事でケガをするリスクは低いし、だからこそうつくしく引き際をデザインしたい。


今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたの理想のリタイアは、どんなふうですか。


谷保恵美さんの最終日の様子を収めた動画はこちらです。


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