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怪獣と怪物 第3のリベロ Vol.31

梅雨も開けて夏本番、学校は夏休みに入った。夏休みがいちばん愉しいのは、何といっても始めのうちだろう。通学の日常から解かれ、面倒な宿題は後に回し、まずはひと月以上もの長い休みに入った喜びに浸る。学生の頃から怠惰に過ごしていた私でさえ、そんな至福のときは記憶していて、その象徴がこの時期に放送されてきたフジテレビの27時間テレビだ。

お楽しみは、「ラブメイト10」。今をときめくトップタレントから、どこぞで見かけた一般人まで、好みの女性を紹介する明石家さんまの名物コーナーが、昨晩4年ぶりに復活した。長年のコンビだった中居正広は不在で、序列を廃止するなど時代に歩み寄る変化もあったとはいえ、スキャンダラスや訃報さえも笑いに変えるお笑い怪獣の面目躍如を再確認する。猥雑なトークは学びや発見などとはかけ離れているが、実生活では味わえない愉しさを分けてもらっているうち、日付をまたぐ数時間は束の間に過ぎていた。

大人になれば夏休みはごく短いが、見どころが目白押しのいま、すでに突入したかのように錯覚してしまう。海外から多くのクラブが来日したフットボールの親善試合、ワールドカップ開幕まで2ヶ月を切ったラグビー日本代表の強化試合が相次ぐなかでも、個人的に最たる関心は土俵上に注いできた。新大関に昇進した霧馬山が師匠から霧島の四股名を譲り受け、3人の関脇は揃って次なる大関取りに挑戦、話題の多かった名古屋場所も最終盤。十三日目の時点で2敗力士が消え、混沌とした状況で主役に躍り出たのが、19歳の新入幕・伯桜鵬だ。

初めて目にしたのは今年3月の春場所千秋楽、本名の落合を名乗っていた新十両の場所での朝乃山との一番。投げに屈したものの元大関と互角以上に渡り合い、怪物との評判が過言では無いのを確信してから、わずか二場所後のいま幕内最高優勝さえ視界に捉えた。錦木を足技で仰向けにし、北勝富士を土俵際で逆転、対戦時はトップだった両者に土をつけた最近二日間の相撲からも、取り口が幅広く、足腰が強くて柔らかい印象を受ける。今場所も大関の貴景勝が不在、横綱の照ノ富士も序盤に連敗して四日目から休場、負傷した新大関の霧島も強行出場したものの負け越した。角界の看板を担うべき最上位が振るわず、それが常態化しているような状況にあって、まだ大銀杏も結えない新鋭は久方ぶりに現れた希望だ。

今日の千秋楽、伯桜鵬は3敗で並ぶ関脇の豊昇龍に挑んだ。白鵬の弟子に対して朝青龍の甥、モンゴルが生んだ大横綱の覇権争いが新章に突入した。右の上手を許した直後に投げで捻り潰され、大正時代以来109年ぶりの新入幕優勝は夢と消えた。それでも、仕切りの際には格上の相手を睨みつけるような堂々たる素振り。夏休み気分の高揚感のなか、次なる日本人横綱が遠からず誕生するのを期待している。

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