見出し画像

4文小説 Vol.22

初めての道をあてもなく歩くと「森のベンチ」という名の喫茶店に行き当たり、階段を上って入り口から奥まで進めば、なるほど木製の大きなベンチがあった。

遡ること2日、ミーティングの席で私の報告に色をなして横槍を入れた先輩の顔、ご機嫌をとるように調子を合わせる同僚の様子、行き詰まっているいくつかの仕事、全てに疲れたその晩、久しぶりの寝不足に見舞われた。

瘡蓋がはがれるように、塞がったと思っていた心の傷口が疼いて、意外なまでに脆くなった自分を痛感した朝、バス停を通り過ぎた足は区の境目を越えた。

温かいコーヒーと思いのほかボリュームのあったエッグサンドをいつになくゆっくり味わい、店を辞してもうしばらく進んだころ、振り向けば抜けるような青空の下に長い一本道が伸びていた。

―出勤できなかった日

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?