Fabhalta (iptacopan)が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の新規治療薬として承認された

Fabhalta /ファブハルタ(一般名 iptacopan / イプタコパン)が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH: paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)に対する治療薬としてFDAに承認されました。

【PNHとは】
PNHは厚生労働省から難病に指定されている疾患で(https://www.nanbyou.or.jp/entry/3784)、貧血や血栓、造血不全といった症状が認められます。

PNHはPIGAという遺伝子に変異をもつ造血幹細胞が骨髄の中で増加することで発症します。PIGAは赤血球の細胞膜に色々なタンパク質をつなぎ止める役割を果たすGPI(glycosylphosphatidylinositol)の産生に重要な遺伝子です。PIGAの遺伝子異常により、赤血球の細胞膜付近で「補体」の活性化を抑制する機能をもつタンパク質(CD55とCD59)が十分に機能できなくなります。

「補体」は本来、外来微生物に穴をあけて排除する機能を持つタンパク質であり、我々の身体を多様な外来微生物から守る自然免疫系において重要な役割を果たしています。補体はいくつものタンパク質分解酵素で構成されており、最終的にはC3というタンパク質がC5というタンパク質を活性化し、外来微生物に穴をあけます。

通常、補体は人間の細胞を傷つけないように厳密に制御されているのですが、PNHの患者では上述のようにその制御が十分に機能しないため、赤血球に穴があけられてしまい、溶血による貧血が認められます。

【作用機序】
イプタコパンは補体が活性化する経路のうち、”alternative pathway(副経路)”を抑制します。イプタコパンの直接的な標的は”Factor B(B因子)”と呼ばれるタンパク質で、イプタコパンはFactor Bと結合することでalternative pathwayにおけるC3の活性化を阻害し、補体の機能を強力に抑制します。

【臨床試験】
PNHの治療薬として既に、C5に対する抗体薬であるソリリス(エクリズマブ)Soliris (eculizumab)、ユルトミリス(ラブリズマブ)ULTOMIRIS (ravulizumab)が利用されています。APPLY-PNH試験(NCT04558918)ではこれらの抗体薬を投与しても貧血が改善されない患者に対してイプタコパンが投与され、約80%の患者で貧血が改善されることが示されています。https://doi.org/10.1182/blood-2022-171469

また、APPOINT-PNH試験(NCT04820530)では抗体薬の治療を受けていないPNH患者に対してイプタコパンが投与され、やはり約80%の患者で貧血が改善されることが示されています。https://doi.org/10.1016/S2152-2650(21)01999-6

イプタコパンは補体副経路を強力に阻害するため、治療を受ける患者は易感染性に気をつけなければいけません。また、血中コレステロール値の上昇が認められることがあります。

【その他】
イプタコパンは従来の抗体薬より有効である可能性が高いこと、服用が簡便な経口低分子薬であることから、現在のソリリスおよびユルトミリスのシェアを奪う可能性は高いのではないかと考えられます。また、PNHと同じく補体制御因子の異常が原因となる難病である非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に対する臨床試験(APPELHUS試験:NCT04889430)が行われています。

さらに、補体が関係すると考えられている腎疾患:C3腎症(APPEAR-C3G 試験:NCT04817618)、免疫複合体が関与する膜性増殖性糸球体腎炎(APPARENT試験:NCT05755386)、IgA腎症(APPLAUSE-IgAN 試験:NCT04578834) に対する臨床試験が行われています。

IgA腎症は比較的患者数も多く、腎不全の原因としても重要であることから特に興味深いと感じます。

PNHに対する経口低分子薬としてはfactor D の阻害薬であるdanicopanの臨床試験が進んでおり、将来的に競合関係となる可能性があります。

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