Wainua (eplontersen)がトランスサイレチン型家族性アミロイドーシスの治療薬として承認された

Wainua (eplontersen)がトランスサイレチン型家族性アミロイドーシスに伴う神経障害に対する治療薬としてFDAに承認されました。

【トランスサイレチンアミロイドーシスとは】
アミロイドーシスはアミロイドと呼ばれる線維状で難溶性のタンパク質の凝集体が様々な臓器に沈着して臓器障害を引き起こす病気です。アミロイドが神経に沈着することで、感覚の異常や筋力低下、起立性低血圧や下痢・便秘、排尿障害が症状として出現します。心臓へのアミロイド沈着は心不全や様々な不整脈を引き起こし、予後を規定する要因となります。
トランスサイレチン (TTR)は主に肝臓で産生されるタンパク質で、甲状腺ホルモンやビタミンAと結合して運搬する役割があります。TTRは通常、四量体として存在していますが、遺伝子変異や加齢によりTTRが正常に折り畳まれなくなる(ミスフォールディングする)ことで、アミロイドを形成し、アミロイドーシスの原因になります。
TTRの遺伝子変異により発症するのがトランスサイレチン型家族性アミロイドーシスで、常染色体顕性の遺伝形式で遺伝します。原因となる遺伝子変異は複数存在しており、日本では長野県と熊本県に特定の遺伝子変異の集積地が存在します。

【作用機序】
EplontersenはTTR遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドです。細胞内で転写されたTTRのmRNAに結合することでこれを分解し、TTRタンパク質を産生できなくすることでアミロイドの形成を防ぎます。

【臨床試験】
NEURO-TTRansform試験(NCT04136184)では168人の患者に対してeploonsertenが投与され、過去の臨床試験(NCT-1737398)のプラセボ群を対象としてその有効性と安全性が評価されました。投与開始65週間の時点において、eplontersenは血中TTR濃度を81.7%低下させ、神経障害の悪化を防ぐことが示されました。特殊な有害事象はほとんど認められませんでした。この試験はオープンラベル、シングルアームの試験である(患者も医師もeplontersenが投与されていることを認識した状態で行われた試験)点に留意する必要があります(doi:10.1001/jama.2023.18688)。
現在、CARDIO-TTRansform試験(NCT04136171)が行われており、1400人以上の患者に対して致死性の循環器症状の出現に対するeplonsertenの有効性と安全性が検証されています。こちらは二重盲検法で行われています。

【その他】
トランスサイレチン型家族性アミロイドーシスに対する治療は近年になり大きく変化しています。
古くから行われてきた肝移植に加え、2010年代になりTTRの構造を安定化させるtafamidis(ビンダケル)が神経障害の進行抑制および心臓合併症の発生を抑制する効能で承認されています。
肝臓におけるTTRの産生を抑制するsiRNAであるpatisiran(オンパットロ)/vutrisiran(アムヴトラ)もトランスサイレチン型家族性アミロイドーシスによる神経障害の進行を抑制する効能で承認されています。トランスサイレチン型家族性アミロイドーシスに伴う心筋症に対しても一定の有効性が示されたもののその効果は小さく、FDAの承認は得られていません。Patisiran/vitrisiranは作用機序的にeplonsertenと競合する製品になります。
トランスサイレチン型家族性アミロイドーシスに対してはCRISPR/Cas9を利用した遺伝子編集治療薬(NTLA-2001)の臨床試験(NCT06128629)も行われています。原理的には一度の治療で効果が長期間継続することが期待されます。

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