検量線の話

検量線ってなに?

検量線とは、濃度のすでにわかっている複数の液を測った時の”装置からの応答”と”濃度値”との関係線のことです
これを利用して定量するのが検量線法ですね
イメージとしては、見比べや食べ比べ、飲み比べを行う感じです

例えるなら・・・
いくつかの濃さがわかっている食塩水があって、それぞれなめてみて”しょっぱさ”を覚える。
次に濃さを調べたい食塩水をなめてみて、どの食塩水にしょっぱさが近かったかで濃さを調べる方法です
ほかにも、色の濃さを比べたりでもできます
大事なのは、比べて定量する方法だということです

ほかに用意した基準になるものと比べて定量することから「間接定量法」と呼ばれることもありますね
これに対して、滴定などの容量法や沈殿分離の重量法は、目的の成分を直接反応させて定量するので「直接定量法」と言ったりします
マイナーな呼び方ですけどね。もしかしたら今は言わないのかも…

基準になるものと試料を比べて濃度を考えるわけですから、目的の成分以外の条件は一緒にしたいですよね?
基準はただの食塩水なのに、試料がお味噌汁ではしょっぱさの感じ方も全然違うので、ちゃんと食塩量がわからないのと同じです。

でも、そもそも成分がわからないから調べてるのに、目的成分以外の条件をカンペキにそろえるなんて出来っこありません
そこで、それをクリアするために検量線法にもいろいろ種類があるのです

検量線法にはどんなものがあるの?

1)絶対検量線法
製品中の成分などである程度ベースがわかっている場合や、薄い溶液で溶媒以外の影響を無視できる場合に有効です
要は、みそ汁の濃さはみそ汁で測ろうというわけです
食塩水の例えは、後者の場合にあたります

2)内標準法
試料と検量線溶液の中に同じ量の「内標準物質」を加えて、目的成分と内標準物質の強度比で検量線を引く方法です
基準になるものを、試料の内部にもうひとつ放り込むので”内”標準といいます
写真を撮るときに、硬貨とか大きさのわかっているものを一緒に写すと大きさがわかりやすいでしょ?

3)標準添加法
最後の手段。めっちゃ面倒な方法。でも優秀。
ベースがわからないなら、試料をベースに検量線を作ればいいよね!という考え方の方法です。
人によっては検量線法とは呼ばないかもしれない
原理は一緒なのでここで説明します。

試料に、測定成分を段階的に添加したものを複数用意して測定します。
そうすると、もともと試料に含まれていた分だけ、上にずれた検量線が出来上がります。
測定成分がどのくらい増えると、測定強度がどのくらい増えるのかはこの線の傾きからわかるので、上から逆にたどれば試料の濃度がわかるって寸法です。

検量線法は、大まかに分けるとこの3種類です
分析手法としての検量線法を長々と語っても仕方ないので、ざっくりですが説明はここまで。(気になる方がいれば別でお話いたします)

検量線法のポイントは?

ポイント1
検量線は、装置の直線範囲の中で引きましょう
(少ないですが曲線で引く例外もあります)

基準点同士の間は「直線で結べるとすれば、この応答ならこのくらいの濃度だろう」という前提なので、まっすぐに検量線を引けていないといけません。
まっすぐかどうかを見極めるためにも4点以上で!

なぜ4点以上か?
2点を結べば必ず直線。3点を通る曲線は必ず引けます
4点あれば、それが直線範囲を外れて曲がっているのか、単にバラツキで直線状に乗らないだけなのか区別することができます
なので、わたしは検量線は4点以上をおすすめしています

ポイント2
検量線の基準点の間隔は、低濃度側ほど密に取りましょう

濃度に対するバラツキの割合が一定だとすると、高濃度側のほうが低濃度側よりバラツキの幅が大きくなりますよね
低いほうの線が高いほうに引っ張られて大きく動くことがあるので、低いほうに点を多く取れば影響を少なくできます

例えば濃度の比を、(1,2,4,8)とか(1,3,5,10)という風に、低濃度寄りに点を密に取るとよいです
重み付き検量線が作れるならそれでもOK!
とくに、定量下限付近はバラツキも大きいので注意しましょうね

ポイント3
検量線は節度を持った長さにしましょう

直線範囲の広い分析法や装置も多くありますが、長すぎる検量線は部分部分で見ると精度が低くなってしまいます
基準点の数は実用上それほど増やせないので、点の間隔が広くなることにつながります
点から離れるほど信頼性は低くなるのでやめましょう

わたしのおすすめは、検量線の下限と上限の比がおおよそ10~20倍です
このくらいなら4~5点程度あれば十分信頼性のある検量線が作れます
どうしても、広い範囲で測定したいなら、上記の範囲で検量線をいくつかに分割するとよいです

作ってみると、直線範囲と言いながらも、少し曲がってたりしますよ

ポイント4(おまけ)
定量下限付近で測定するなら、検量線の下限濃度は定量下限濃度にするとよいです
なぜなら、下限の基準点と比べて測定強度が試料のほうが低ければ、間違いなく定量下限値未満と自信をもって言えるでしょ?

それに、その基準点の強度がそこそこ出ていなければ測定のミスを疑えます

検量線の範囲を外れたらどうする?

選択肢としては、
1)試料を希釈する
2)検量線を伸ばす
3)そのまま報告する
の3つではないでしょうか?
順番に考えてみましょう

普通の流れだと、
装置の直線範囲→検量線範囲→試料濃度
となるはずなので、装置や分析法の範囲に入るよう試料を薄めるのが良いでしょう

次の「検量線を伸ばす」ですが、これは直線範囲に余裕があることが条件です
さらに、これを選択するのは「試料量が限られており無駄遣いできない」とか「検量線試料を作るほうが楽」といった場合ではないでしょうか?
ちょっと上級者向けかも。特に内標準法の時は要注意ですね

「そのまま報告する」も間違いではありません
なぜなら、定量下限未満のときや、そもそも分析方法の定量範囲から外れたときは、同じ方法で測定しても意味がないからです
このほかにも、関係先との取り決めで精度よりも報告の速さを求められている場合もあります
ケースバイケースですね

では、それぞれの方法のポイントは?

「試料を希釈する場合」
当然希釈するのですからベースも薄くなります
そのまま同じ検量線を使うと、おおよその値は出ますが、特に塩濃度の高い溶液の時は、薄めることで粘度が下がって高めの値を示すことが多いです
そうなると検量線も作り直しですね

あと、希釈の際の汚染にも注意が必要です
10倍希釈であれば汚染の影響も10倍になってしまいます
特に試験室の環境中に多く存在する成分(Cl,CO2,Na,Ca,NH4など)は要注意です
そんな時は、次の「検量線を伸ばす(高濃度側で作り直す)」も選択肢に入れましょう

希釈は検量線を高濃度側に超えた時しか使えませんが、検量線を伸ばす場合は上下両方に使えます
ただし、上下ともに装置の直線範囲や定量範囲から外れないことが条件です
ここを間違うと、分析方法の妥当性の観点から問題になってしまいます

検量線を延長する際にもベースを合わせることが大切です
もし、内標準法を使っている場合は、確実にほかの試料と同じ量の内標準物質を加える必要があります
溶液で添加しているなら、ほかの試料に添加した時点から半日以上経過していると、温度差による添加誤差が出てくるかもしれません

試料を希釈するときにも言えることですが、酸や前処理で加えた試薬の量は、未知試料と検量線試料で合わせるのが鉄則です
後から加えているのでこれはできるはずです。
これを怠っていると、毎回同じような傾向で偏りが生じるので、ばれた時の検証が大変な量になってしまいます。要注意!!

最後におまけとして標準添加法のポイントですが、
1)方法の直線範囲で成分添加すること
2)試料の成分濃度と添加上限濃度の比は2~5倍程度に納めること
3)標準添加法もすべての影響を防止できるわけではないこと
です

1)と2)はわかりやすいですね
直線範囲でなければ試料濃度の推定が難しくなりますし、添加する成分が多すぎても少なすぎても検量線の信頼性のある範囲に試料濃度が当てはまらなくなってしまいます
3)についてなんですが、実は負の影響については有効ですが、正の影響は回避できないときがあります

例えばICP‐AESの分光干渉がこれに当たります
詳細は省きますが、標準添加法だからと安心せずに複数の波長のピークを観察して影響がないか調べるといいでしょう

もし、わたしの活動を支援してくださるならサポートをお願いします。いただいたサポートは、書籍の購入などわたし自身の学びと提供できる情報のために使わせていただきます。