5.試料の前処理

 排水中の物質は水に溶けているものや、濁りとし存在します。特に決まっている成分以外は、その水に含まれている全部の物質を対象としています。多くの金属成分の前処理は共通しているので、この規格にまとめて書かれています。

5.1 塩酸または硝酸酸性での煮沸

 この方法は、有機物や濁りがほとんどなく、酸を加えて沸騰させるだけで十分処理できる試料に使います。
 試料100mlに対して、塩酸または硝酸を5ml加えて沸騰させます。
 この操作は試料の前処理として最も簡単なもので、測定の邪魔になる成分がなさそうな試料に対しても最低限この操作は行いましょう。
 測定の邪魔になる成分が含まれるかもしれないときは、同じ量の試料に分析目的の金属成分の濃度がわかっている液を加えて同じ試験を行い、加えた分がちゃんと多く検出されるか確認しましょう。加えた分より少なく検出されたり、多く検出されるときは妨害になる成分が含まれていると考えます。

5.2 塩酸または硝酸による分解

 この方法は、有機物が少なく、濁りの成分が分解しやすいもの(水酸化物・酸化物・リン酸塩・硫化物など)に使います。
 試料100mlに対して塩酸または硝酸を5ml加えて加熱し、液量が15mlになるまで煮詰めます。
 ほとんどの濁りはこの方法で分解でできます。硫化物系は硝酸、それ以外には塩酸がおすすめです。
 重金属の硫化物には備考の塩酸と硝酸を混ぜたものが有効です。すず・アンチモンを含む試料に使えます。
 この方法で分解できない白い粉状のものは二酸化ケイ素であることが多いです。残った場合はこの処理の後、ろ過して測定しましょう。

5.3 硝酸と過塩素酸による分解

 分解しにくい有機物を含む試料の分解に使います。過塩素酸の強力な酸化力と脱水力を活かして分解する方法です。
 試料に硝酸10mlを加えて加熱し10mlになるまで煮詰めます。冷ましてから硝酸を5ml追加し過塩素酸10mlを少しづつ加えます。加熱し、白い煙が出始めたら時計皿で蓋をして、容器の壁面に液体がついて流れ落ちていく状態で有機物を分解します。有機物が残る場合は硝酸を5ml追加して加熱を続けます。
 過塩素酸は、硝酸がない状態で有機物と一緒に加熱すると爆発します。必ず硝酸を加えて分解してください。
 アルコールなどの分解しやすい有機物や油分などの水と混ざりあわない有機物は過塩素酸と加熱すると爆発しやすいので、この方法は使えません。
 金属塩を含む試料に過塩素酸を加えた状態で乾ききるまで蒸発させてはいけません。
 過塩素酸をこぼしたら大量の水で洗い流しましょう。布や紙でふき取ると、発火することがあります。

5.4 硝酸と硫酸による分解

 5・3の過塩素酸の代わりに硫酸を使う方法です。過塩素酸と違って爆発の心配はありませんが、鉛・カルシウム・バリウムを多く含む試料では、溶けにくい塩を作ってほかの金属成分を巻き込んで沈んでしまうため使用できません。
 5.3の過塩素酸の代わりに50%硫酸を使用します。分解の方法は同じです。
 フレーム原子吸光やICP発光法など、溶液を霧状にして測定する装置を使う場合は、硫酸によって溶液の粘りが増すのでおすすめできません。

参考資料
 JIS K 0102 5 工場排水試験方法の試料分解方法

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