自堕落大学生

「はぁ、だるいな」
 昼休み、重いため息をついた男が一人、誰もいないサークルの部屋の椅子に腰かけ猫背の状態でスマホを見ている。
 一年生の秋学期も中盤もうじき12月に入ろうという時期に男はスマホの時間割アプリを起動し予定を見る。
「あと何回休めたっけ、一、二回くらいか」
 その日に入っている授業は三時間目で終わり、つまり次の授業にさえ出れば帰宅だったが、その男はもうすでに授業をさぼり帰ることを考えていた。
 教授が厳しいわけでも授業についていけないわけでもない。ただ何となく気乗りしなかったのだ。
 高校の時のように勝手に休めない環境ならば彼はほぼ休むことなく登校していた。行きたくなくても行ってしまえば帰宅時間まで帰ることができない拘束力があったからだ。しかし今は違う。帰ろうと思えば授業の合間にいつでも帰ることができる。忍耐力のない男にとってはその自由さがさぼり癖を加速させた。
 休めば次に行くときに心理的ハードルが上がってしまう。頭ではわかっていても目の前の帰宅欲求を抑え込めるほど強い力を持ってはいなかった。
家に向かいだらだらと自転車をこぎながら男はぼんやり考える。どうやったらこのさぼり癖を抜くことができるのかと。
 男は自身の持つさぼり癖や忍耐力のなさを自覚していた。しかし、かといって有効な手立てを思いつくほど頭が切れるわけでもなかった。
 何とか通い続けられていた高校時代を思い返してみると友人の存在が思い浮かぶ。退屈な授業や苦手な教師がいても友人がいれば他愛のない雑談や愚痴を言うことができた。大学に入ってからは友達と呼べる存在は見つけられなかった。というのも大学においては高校と異なり授業のたびに移動が挟まり交流する時間が少なく同じ話題や趣味の仲間を見つけることができなかったのだ。
 そして秋学期ともなれば一年生といえども人間関係はグループが形成されている。コミュ力の高い人であっても完成されたグループに入るのは至難の業だろう。ましてや対人能力の優れていない男には厳しかった。
 授業に不真面目でサークルでも至って目立った活動はなく、おまけに友人と呼べる人すらいない。そんな真面目学生が青ざめそうな大学生活を送っているのが俺だ。
 現在の延長線上に未来があるのなら、俺の未来は明るいとはいえなそうだ。


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