「水か醤油かゲーム」考察

※この記事は「ゲームする部 Advent Calendar」7月2日担当分です。


はじめまして。ancketと申します。

突然ですが、皆さんはこちらのツイートをご存知でしょうか。

「予算が完全に尽きたVS嵐」という状況を、導入部はVS嵐の文脈に則ることで想像しやすくユーモラスに表現し、その後徐々にVS嵐から離れ、現実では考えられない突飛な行動を取る構成によって悪夢のような非日常感を演出している、まさに名文と呼ぶに相応しいツイートです。

さて、このツイートでは、「相葉」は水と醤油を間違えてしまい、自ら焼却炉に入ることを選んでしまいました。しかし、この記事を見ている読者の多くは、「飲んだ液体が水か醤油か」を問われた際に、間違うことなく当てることができるでしょう。

では、わたしたちは、なぜ「相葉」のように間違うことなく、「飲んだ液体が水か醤油か」を当てることができるのでしょうか。

「水か醤油かゲーム」プレイヤーに求められること

前提として、「水か醤油かゲーム」では味覚以外の感覚は用いないものとします。すなわち、視覚や嗅覚、飲後の体調などによるアプローチは考えません。

このとき、「水か醤油かゲーム」プレイヤーが正解するためには「飲前」「飲中」「飲後」の観点から3つの要求が課されることになります。

  • 飲前
    1-1. 水または醤油について、味を記憶している
      もしくは
    1-2. 水と醤油で相違する味覚的特徴について知っており、その味を記憶している

  • 飲中
    2. 味を記憶時と同様に知覚できる

  • 飲後
    3. 知覚した味と記憶の味を照合し、水か醤油かを判断できる

以下ではこの3要求のそれぞれについて詳しく説明します。

(要求としては他にも「ルールを理解できる」「判断を表現し伝達できる」などが挙げられますが、今回は判別のプロセスに関連したものに限定しています。)

1-1. 水または醤油について、味を記憶している

ここでの「味」は、「味のクオリア」と同等です。「クオリア」は経験によって個人が得る感覚のことを指す用語です。つまり、「味のクオリア」というのは、例えば砂糖を舐めた際の甘い感覚や、レモン汁の酸っぱい感覚などの総称となります。

水または醤油のいずれかを過去に飲んだことがある場合、水または醤油の味を記憶する機会があったことになります。人間が水も醤油も飲むことなく生活し続けるのは非常に稀であるため、読者の大半はこの要求を満たしていると考えられます。

では水も醤油も飲んだことのない人は「水か醤油かゲーム」で正解できないかというと、そうとも限りません。それが1-2の要求となります。

1-2. 水と醤油で相違する味覚的特徴について知っており、その味を記憶している

相違する味覚的特徴とは、「水には塩味が無いが醤油には有る」「水には甘味が無いが醤油には有る」などといった、両者を区別できる情報のことを指します。この情報に加えて「塩味のクオリア(感覚)」を記憶していれば、水と醤油を飲んだことがなくとも、塩味をもって水か醤油かを判断すれば良いとわかります。

2. 味を記憶時と同様に知覚できる

1-1においても1-2においても、過去に何かしらの味を経験し記憶している必要があります。この記憶時点での味覚と飲中の味覚が異なる場合、同一の対象から得られる味もまた異なります。
したがってこの要求は、3の照合を正しく行うために必要です。

3. 知覚した味と記憶の味を照合し、水か醤油かを判断できる

この要求の「記憶の味」は、1-1と1-2のどちらの要求を満たしているかによって異なります。

1-1の場合、記憶の味は「水または醤油の味」となります。この場合、味を記憶していない方を飲んだとしても、消去法によって判断が可能となります。

1-2の場合、記憶の味は「塩味」「甘味」など、相違する味覚的特徴に準じた味となります。この場合の判断は、味の有無や濃淡によって行われます。

なぜ当てられるのか

「水か醤油かゲーム」で正解を当てるためには、上で挙げた3要求を満たす必要があります。実は、「水か醤油かゲーム」はかなり高度な要求を突きつけるゲームだったのです。
しかし、わたしたちは「水か醤油かゲーム」で正解を当てることができます。それは、わたしたちが上記3要求を自然と満たしているからなのです。

つまり、わたしたちは普通に生活を送っているだけで、水か醤油の味を記憶し、味覚を一定に保ち、味の照合によって水か醤油かを判別することができるようになっているということです。

「水か醤油かゲーム」の一般化

ではここで、「水か醤油かゲーム」を一般化した「AかBかゲーム」について考えることにします。
「AかBかゲーム」は、AかBのいずれかであるXに対して感覚Sを用い、XがAかBかを特定するというゲームになります。

ここで、何かWに対して感覚Sを用いて得られるクオリアをQ(W;S)と書くことにすると、前章の3要求は以下のように一般化することができます。

  • 記憶
    1-1. Q(A;S)かQ(B;S)を記憶している
      もしくは
    1-2. AとBで相違するS的特徴Dについて知っており、Q(D;S)を記憶している

  • 知覚
    2. 任意のWに対して、Q(W;S)を記憶時と同様に知覚できる

  • 判別
    3. Q(X;S)と、記憶のQ(A;S)かQ(B;S)かQ(D;S)を照合し、XがAかBかを判断できる

「水か醤油かゲーム」においては、Aは「水」、Bは「醤油」、Sは「味覚」となります。Dについては「塩味」や「甘味」などを当てはめることができるでしょう。

次章では「AかBかゲーム」の具体例として、別のゲームをひとつ示します。

「トカゲかカナヘビかゲーム」


※注意
以下爬虫類の画像が出現します。
苦手な方は次の節へお願いします。


トカゲかカナヘビかゲ~~~ム!!!

こちらは見た動物がトカゲかカナヘビか当てるゲームです!


カサカサ…


「トカゲかカナヘビかゲーム」プレイヤーに求められること

  • 記憶
    1-1. トカゲかカナヘビについて、姿形を記憶している
      もしくは
    1-2. トカゲとカナヘビで相違する視覚的特徴について知っており、その視覚を記憶している

  • 知覚
    2. 視覚を記憶時と同様に知覚できる

  • 判別
    3. 知覚した視覚と記憶の視覚を照合し、トカゲかカナヘビかを判断できる

前章の記号を用いると、Aは「トカゲ」、Bは「カナヘビ」、Sは「視覚」となります。

ヒント

トカゲの尻尾の長さは全長の1/2、カナヘビの尻尾の長さは全長の2/3です。
参考

解説

今回の「トカゲかカナヘビかゲーム」、正解は「カナヘビ」でした。正解できなかった方はOUTのため、自分から焼却炉に入っていただきます。

閑話休題、ヒントではトカゲとカナヘビの「全長に対する尻尾の割合」を「相違する視覚的特徴(D)」として伝えることで、要求1-2をサポートしています。
これによって、トカゲもカナヘビも見たことがない人や、見たことはあるけれども姿形が記憶にない人も、「1/2」か「2/3」の視覚(クオリア)が記憶にあれば要求1-2を満たすことができます。

要求2と3に関しては、読者の多くは問題ないと考えられます。
要求2については、この文章は読者の視覚を媒体として伝達されており、加えて「1/2」や「2/3」の視覚(クオリア)はありふれたものだからです。
要求3については、あまり大きなことは言えませんが、視覚のある人間のほとんどは視覚の照合が可能でしょう。

したがって、判断できていなかった人の多くが、ヒントによって「カナヘビ」だと判断できたと思います。

まとめ

本記事では、「水か醤油かゲーム」に関して、正解するために必要な3要求を提示しました。そして、読者の多くが「水か醤油かゲーム」に正解できるのは、自然に3要求を満たしているからだとしました。

加えて、「水か醤油かゲーム」を一般化した「AかBかゲーム」に関しても、一般化した3要求を示しました。「AかBかゲーム」の具体例として「トカゲかカナヘビかゲーム」を出し、3要求が機能していることを確認しました。



あとがき

本来は本日7月2日午前0時に投稿すべき記事でしたが、怠け癖と寝落ちによって投稿が遅れてしまい、関係者各位には多大なご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございませんでした。

執筆の予定では「水か醤油かゲーム」がゲームとしては全く面白くないことから、2択クイズの面白さはどこに有るのかについて話を更に広げていく予定でしたが、良いまとめ方も良いつなぎ方も思いつかなかったのでやめました。自分の作文能力の低さに打ちひしがれる午後。

私がかろうじてタスキを繋いだ「ゲームする部 Advent Calendar」はまだまだ続きます。もしよろしければ他の記事もご覧になってください。

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