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『汲み尽くせない建築の魅力』オンライン勉強会


2024年4月17日、and_dでオンライン勉強会の第2弾となる『汲み尽くせない建築の魅力 -オブジェクト指向存在論から見る建築の一側面-』を開催しました。

概要としては、オブジェクト指向存在論(以下、OOO)と建築の深い関連性について探ります。OOOの基本概念を紹介し、この哲学がどのように建築に影響を及ぼすかを考察し、OOO建築から理論と実践の結びつきが現代建築業界におけるどのような問題に光を当てるかを探ります。

本勉強会では、杉原(and_d)が発表を行い、ゲストスピーカーとして酒井良多さん(京都大学ダニエル研究室)をお招きし、聞き手兼質問者をしていただきました。






1. 「OOOと建築」に関する発表



発表の主な流れとしては、近代の建築理論の主な流れ、昨今の理論の潮流として「フィールドの理論」、「オブジェクトへの回帰」としてOOOを紹介し、OOOを代表する建築家二人の作品分析、そして理論の実践として杉原の卒業設計「object zeroing」を紹介するという形式で行いました。


・近代の建築理論の主な流れ

建築理論の近代の流れとしてモダニズムからデコンストラクションまでを大まかに紹介しました。

モダニズムーポストモダニズム

モダニズムでは、ル・コルビュジエを代表に「ドミノシステム」や「近代建築の五原則」を紹介し、時代として合理性、機能性、普遍性が建築に求められていました。
その後のポストモダニズムではモダニズム建築が建築としての意味を漂白してしまったのではないかという疑いから建築の形態の意味や本当に良い建築とは何かなどの「意味論」の時代に移行しました。ここでは、ロバート・ヴェンチューリやコーリン・ロウを紹介しました。


デコンストラクション

デコンストラクションの時代では、ポストモダニズムにおける「意味論」的建築を継承し、さらに哲学者のジャック・デリダの影響、西洋哲学の態度である二項対立を疑い、その解体を求めていました。
ここでは、デコンストラクション建築の代表の一人としてピーター・アイゼンマンを紹介し、彼の初期の建築から理論的変遷を辿り、次の時代のキーワードを導きました。



・昨今の理論の潮流「フィールドの理論」

フィールドの理論の時代背景として、デジタルの台頭やベルリンの壁の崩壊があります。そこで建築はデコンストラクション以降どのように変わっていったのかを紹介しました。


デジタル建築の台頭とペーパーレス・スタジオ

デジタル建築の台頭として、ペーパーレス・スタジオが挙げられます。ペーパーレス・スタジオはデコンストラクション建築の一人であるバーナード・チュミが立ち上げ、中心メンバーとしてグレッグ・リン、スタン・アレン、ハニ・ラシッド、ライザー+梅本などがいました。
リンはアイゼンマンの弟子であり、彼の「Folding」の概念を建築の手法として確立させたり、後のパラメトリック建築に影響を与えるパラメーターと建築のバリエーションなどを提示しました。また、アレンはオブジェクトからフィールドへと建築を周辺の環境やコンテクストとの連続体として取り上げるなど、建築は「意味論」的時代から「生成論」的時代に移り変わりました。


「West Side Convergence」と「MAXXI」

また、フィールドの理論においてどのように実践されていたかを少し詳細にライザー+梅本とザハ・ハディドの建築を紹介しました。また、ザハ事務所のパトリック・シューマッハの「パラメトリシズム」も紹介しました。



・オブジェクトへの回帰

ここまで近代の建築理論のフィールドに至るまでの変遷を紹介しましたが、ここからは、なぜOOOが建築に取り入れられたかを紹介しました。
OOOが建築に取り入れられる契機としてデイヴィッド・ルイの「(奇妙で不可解な)オブジェクトへの回帰」が挙げられます。


OOOの「還元」

まず、グレアム・ハーマンのOOOの大まかな紹介を行いました。上方解体(関係性のネットワーク)と下方解体(構成要素)というオブジェクトの還元的な性質の着目し、オブジェクトの自律性がどのように還元されてしまうかを説明しました。オブジェクトは常に余剰を持っており、汲みつくすことのできない深みを持ち、関係性から退隠している。そして、「なにからできているか」や「なにをもたらすか」といったことは、どれもオブジェクトの一側面にすぎないという事がわかりました。


フィールドの理論とオブジェクトへの回帰

再びルイの「(奇妙で不可解な)オブジェクトへの回帰」へ戻り、フィールドの理論の批評となぜオブジェクトに回帰するのかからOOO建築が目指す建築像へと迫りました。


OOO建築の意義

OOO建築の理論と実践としてマーク・フォスター・ゲージとトム・ウィスコムの2人の建築家からそれぞれ2つずつ作品を紹介し、OOO建築の意義を導きました。


・理論の実践

理論の実践としてand_d メンバーの杉原が卒業設計「object zeroing」として、OOOを題材にしていたので、紹介しました。

↓ 詳細はこちらで紹介しています。


理論の実践「object zeroing」



2. オンライン議論


オンライン議論の様子

オンラインの議論ではゲストスピーカーとして酒井さんが加わり、発表中にチャットに集まった質問を元に話が展開されました。

議論であがった主な議題
・そもそも「フィールド」って何?
・OOOから見たゲーリーの自邸
・卒業設計の詳しい操作方法
・OOO建築の建築たらしめる定義や原理
・OOO建築の神秘性とは?
・「キットバッシング」以外の手法
・アンドリュー・コバックの作品と実践性

上記のようにさまざまに議論は展開し、酒井さんを筆頭にメッセージのチャットだけでなくボイスチャットにも参加者の方々が参加してくださり、熱い議論が行われました。酒井さんはじめ、参加してくださった皆様、ありがとうございました。



3. まとめ


最後に、今回のオンライン勉強会では建築の文脈を元にOOO建築を紹介致しましたが、文脈を汲み取ることやOOO建築が重要なのではなく、勉強会を通して「なぜ今、理論と実践が必要なのか」を知る機会になればと思い開催に至りました。
契機としては、トーマス・ヘザウィックのTED『「退屈な建築」が台頭するいま、人間性あふれる建築を擁護する』がありました。技術が急速に台頭する今だからこそ、冷たい建築や都市を増やさないために理論ベースの実践が必要なのではないでしょうか?

なぜ今、理論と実践か



4. クレジット

主催:and_d
発表者:杉原康太 (and_d、大阪産業大学M2) 
https://twitter.com/12ks11_10
ゲストスピーカー:酒井良多 (京都大学M2) 
https://x.com/levyymore?s=21&t=JmqLSwKbLljLjP-_xZb9Rw



5.参考

デイヴィッド・ルイ「(奇妙で不可解な)オブジェクトへの回帰」
https://www.10plus1.jp/monthly/2016/12/issue-03.php

平野 利樹さん(東京大学特任講師)の資料
https://toshiki-hirano.com/hirano_resume.pdf

https://toshiki-hirano.com/0826_hirano_lecture.pdf

マーク・フォスター・ゲージHP
https://www.mfga.com/

トム・ウィスコムHP

https://tomwiscombe.com/WORK

TED:トーマス・ヘザウィック
https://www.ted.com/talks/thomas_heatherwick_the_rise_of_boring_architecture_and_the_case_for_radically_human_buildings?language=ja

その他
https://julianwylegly.wordpress.com/wp-content/uploads/2010/11/rur-wsc-technique.pdf

https://www.patrikschumacher.com/Texts/The%20Meaning%20of%20MAXXI.html

https://note.com/motoaki_iimori/n/nd70723860a7a

https://note.com/taku_samejima/n/n57755a130eb1



6. SNS / お問い合わせ

and_dは様々なメディアで情報発信を行なっています。今回のオンライン勉強会でも見られたように実は建築の理論をベースに活動などを行っています。noteではこれから活動録やメンバーの読書録などを不定期に配信していく予定です。よければ、フォローや拡散の程よろしくお願い致します。

andd.connect@gmail.com






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