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今月のひと駅-2023年11月

下小川(水郡線)

しもおがわ駅 茨城県常陸大宮市
大正14年開業

地獄の橋の清らかさ

 中舟生を過ぎて国道が川の対岸へ渡ると、いよいよ清流とのランデブー。待ちに待った清々しい風景が、この先、常陸大子のまちを挟んで福島県境まで堪能できる。

 渓流の水面がだいぶ近づいてきた頃、関東では珍しい沈下橋が見えてくる。頑丈なコンクリート造りとはいえ、欄干もなく細々とした橋は、どこか頼りなく映る。それでも国道と下小川の集落を結ぶ、れっきとした生活道路で、もちろん車も通ることができる。歩いて渡っても、何とはなしに水面へ吸い込まれそうな恐怖を覚えるものだが、車だと、まさに平均台の上を伝うかような緊張感を植え付けられる。橋の名は平山橋というが、この地方では沈下橋のことを「地獄橋」と呼ぶそうだ。清流ラインの車窓の友にはそぐわない名だけれども、心に刻まれる旅の名場面ではある。

 橋から道がせり上がって踏切で交差すると、山手にいくつかの民家が並び、ほどなく下小川駅に着く。駅舎は木造から建て替えられ、待合小屋の機能しかないが、和風の意匠が施された立派なもの。相対式ホームの上り線側からは、林を挟んで久慈川がのぞき、ゆったりとした静寂を嗜むには格好のロケーション。例の地獄橋もすぐ近く。この後、登場する矢祭山みたく、少しだけ観光の要素を満たしたいところだ。

下小川駅より望む平山橋

【2018(平成29)年取材】

(駅路VISION第25巻・水戸/水郡線より抜粋)


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