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絵本「ねことことり」

たてのひろしさんの穏やかな文章と、なかの真実さんの細密画に、一瞬で、絵本の中の世界に入り込みます。

ねこが住んでいる真っ赤なとんがり屋根のお家がとてもすてきで、そこに住みたいっと思わせられます。

こぢんまりと全てが過不足なくそろった二棟が渡り廊下で繋がったドーム型の家。その中心にダイニングテーブルがあって、ねこは普段そこで過ごしています。

開いている窓から、草原のさわやかな風が吹き込んで頬をなでていく感じを、読みながら味わえるような絵。

その書き出しが秀逸です。

きょうは あたたかくて いいおてんきです。
ねこは いえじゅうのまどを
いっぱいに あけて、
よくさました こうちゃを のんでいます。

「ねことことり」 世界文化社

よく冷ました紅茶を飲んでいるのです、猫舌ですからね。

ねことことりのほんの短い期間の思いやりにあふれたやりとりが、じんわりとこころに染み渡り、笑顔のまま眠りにつける、そんなストーリーです。

でも、絵本はこどもだけのものではありません。

むしろ大人になった今だからこそ、物語の背景に埋め込まれた意図に気付くことができます。

そんな意図はことさら主張されているわけではありません。ただ、やさしい文章とさわやかな草原の風に乗って、すーっと心に入ってくるように、読み手が勝手に感じるものです。

あ〜、幸せな時間でした。



後日追記-2023年9月13日
感想を書いた一連の絵本は、実はいづれも、第28回日本絵本賞の最終候補に残った作品ばかりでした。
そして、めでたく絵本賞に輝いた三作のうちの一冊が、まさにこの作品でした。



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