「夢を語れる」という特権
「あなたの夢は何ですか?」
これを読んでいるあんたも子どもの頃、よく聞かれた言葉ではないでしょうか?
「夢を持つ」
「自分の将来、大人になった姿を思い浮かべる」
誰もが経験した、当たり前のような感覚かと思います。
ただ、その感覚が当てはまらない経験を僕はしたことがあります。
難民の子どもたちの夢
僕は約10ヵ月間、インターン、そしてスタッフとしてヨルダンにあるシリア難民が暮らすキャンプで仕事をしていました。
いわゆる「難民キャンプ」と呼ばれる環境です。
僕の団体はキャンプの中にある小学校の一つでプロジェクト(授業)を行っていました。
日本の子どもたち同様、難民の子どもたちにとって教育はとても大切なものです。
難民という立場に置かれている子どもたちが、この隔絶され、閉鎖的な難民キャンプという環境から出るためには、学校でいい成績を残し、大学に行って専門的な仕事を得る、というチャンスしかありません。
そのため僕たちは、子どもたちに「勉強をする目的」を考えてもらいたく、彼らの将来の夢を聞くことにしました。
口々に聞かれた「シリアに戻ること」
最初に全体に聞いた際、次々に聞かれたことは「シリアに戻ること」という回答でした。
当前ですね。戦火の中にある祖国に平和が戻り、キャンプという過酷な環境から自分の家に戻ることはシリア人の誰もが願っています。
そこで僕らは質問を変えてみて「将来なりたい職業は何か」と聞いてみました。
「お医者さん、学校の先生、肉屋さん」といくつか声が聴かれました(ちなみにこれらは全てキャンプ内にある職業です)
5年生から6年生の子どもたちはまだ、こういった将来の自分の姿をぼんやりと考えることができます。
ただ、自分の将来をもう少し冷静になって考える7年生や8年生になると少し回答が変わってきたことに気が付きました。
今も忘れられない、8年生の男の子の言葉
「(難民として暮らす)シリア人にチャンスはないんだから」
日本の中学二年生に相当するクラスで夢を聞いた時、ある男の子が気まずそうに放った言葉です。
中学生でなんと大人びているんだと思うかもしれませんが、紛争の影響で長い間学校に通えていなかったシリア人の子どもは多く、中学二年生のクラスと言っても高校生以上の年齢の子も多く通っています。
目を輝かせて考えていた5年生の子どもたちとは違い、自分の現実を把握する年齢になる7年生や8年生では少し気まずい空気が流れていました。
僕の働いていたキャンプでは、全体の半分の子どもしか学校には通っていません。男の子は中学に入ったころから仕事を始める子もおり、女の子は結婚させられる子も多いという環境。
「夢をきく」という行為が、自分の現実を突きつける、ここまで残酷なことにもなり得る。
「将来○○になりたい」と言えること自体が、それを実現できる環境にいることを示しすでに恵まれているのだ、という事実を突き付けられた気がこの時しました。
これを書いて何を変えたいのか、と聞かれても正直分かりません。
もちろん日本の子どもたちにはこの「無限大の可能性」のありがたみを感じ、一生懸命夢を追ってほしい。
シリアの子どもたちをはじめ、「難民」という立場におかれている子どもたちには、また彼らが自由に夢を描ける社会が戻ることを願っている。
それよりも、自分が感じた不条理をしっかりと言葉で残しておく意味もあるかもしれないと思い、この文章を残します。
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