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若き日の太陽

11月の日中はまだ暖かった。適度に風もあって春のような天気だった。日差しは秋の残りの匂いがした。

街を歩く。娯楽の少ない地方にも街はある。街と被写体さんと季節の風景があればどこだって遊び場所になる。

好きな街には図書館がある。空や海を眺めながらぼんやりと過ごせる公園がある。気軽に立ち寄れる美術館や演劇のホールがあると尚良い。

これからを生きる僕達は沢山の文化に触れる必要がある。人の作ったものを通じて新しい感性に。今日まで続いてきた歴史に。ここ数年で失われたものの為に。

ここだと実感できる場所が無いなら、自分で作ってしまえばいい。身の回りを美術館にしてしまえばいい。部屋を沢山の作品でいっぱいにしよう。

撮りたい人を撮らせて貰っている。写真を撮るのは絵を描く感覚に近い。初めて見る風景がなぜか懐かしく映る。その瞬間の世界の見え方を記録している。

被写体さんと作った写真を並べて、人に見て貰えた時、世界にたったひとつの空間ができる。

今よりも若い頃、掴み所のないぼんやりとしたイメージが頭の中を漂っていた。

自分の中にあるものだから、外には出さずに大切にしまっておこう。誰にも分けずに取っておこう位に考えていた。

写真を続けて月日が経ち、自分の撮る写真に必ず映り込んでいるものに気がついた。

自分だから感じ取れる何か。今まで触れてきた本や映画の中にもそれはあった。ものづくりに関わる人達の共通の想いのように感じられた。

輝く人や輝くものを見るのが苦手だった。出来るだけ目立たない日陰にいようとした。自分以外の誰もいない場所はとても落ち着くのだった。

今は太陽を追い求めている。相変わらず日陰にいる時間は長いけど、日の当たる場所へ出て、人を撮らせて貰っている。

他者の中に太陽を見出す時もある。僕が最初に見つけたように感じられて嬉しくなる。多くの場合それは思い込みに過ぎないのだけど。

街に出て人を撮る。若い頃はどこにもないと思い込んでいたものは、いつだって身近な場所に隠れていた。

model : 伊吹りん

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