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海に慣れていない僕が出会った夕暮れのDJ

「海で過ごすって、お前にとっては日常のことかもしれないけど、俺には特別なイベントなんだよ」

友人から急に海に遊びに来ないかと誘われた。
彼は生粋の海育ち。
夏になると海の家を手がける彼は、コンビニ行かない?くらいの気軽な感覚で連絡をしたのだろう。


海なし県で育った僕にとって、「海」というワードは身近な存在ではない。
厳かであり、甘美でもある、何か特別な響きがあるものだった。


久々の電話でせっかく誘ってくれたのに。
めんどくさいやつだなって思われたかな。

なんて昨晩の電話を思い出していると、海を彷彿とさせる白地に青ラインの車体がホームに滑り込んでくる。
普段乗らない小田急線。
周りを見渡してみると、海に行くだろうなーって人もちらほら。
出発が遅かったからか、そこまで海水浴客は多くないようだ。


普段、電車移動中はスマホの世界に没頭するのだが、今日に限っては、いつつくんだ?という友人のラインに返信をしたくらい。

車窓を流れる街の風景も、
ワインレッドのシートの座り心地も、
停車したときに入ってくる町々の匂いも、
全てが新鮮だ。
遊びに行くのではなく、旅、いやむしろ冒険を始めたような…

そんな感覚に浸っていると、スマホをほとんど触らずに目的地にたどり着いた。

すでに傾いている日差しがピリピリと肌を刺す。
海独特の磯の香りが鼻の奥までたどり着いたと思ったその時、友人からの着信があった。

「おせーよ、どこだよ?こっちははじまるぞ」
「今さっき駅ついたよ。もうすぐ着くわ」

どうやら今日は彼の海の家で「パーティー」があるらしく、どうしても俺にそれを楽しんでもらいたいらしい。
彼女がいない俺を心配して、やつはよくそういうイベントに誘ってくれるんだ。
世話好きというか、お節介というか。
でもいいやつであることは間違いない。


ビーチに着いた。
ごまんといる日焼けした若者たち。
とにかく”開放的”になっている。
そんな若者たちの中に埋もれると、急になんだか不安になった。

所在なげにたちすくみ、あたりを見回していると、友人が遠くから手を降っているのが見えた。
僕は小走りに彼のもとへと急いだ。

海の家のウッドデッキにはさまざまな観葉植物が風に揺れていた。
フットレスト付きのロッキングチェアが優雅な雰囲気を醸し出している。
そのセンスに感心しながら、彼のテーブルにたどり着く。

久々の再会だ!とすでに顔を赤くした彼はテキーラのショットを手渡してくれた。
冷えているはずなのに、喉の奥を通り過ぎる時には熱くなる不思議な液体。
幾分感じていた居心地の悪さがすーっととろけていくような…

「今日はさ、めっちゃ気持ちいい音をかけるDJがきてるんだよ、もうすぐ音出しだ」

そういう友人の目線の先にDJブースが準備されていることに全く気づかなかった。
ブースの奥では”気持ちいい音をかける”というDJがミキサーにヘッドフォンを差し込み、準備を始めていた。

傾いていた太陽も徐々に赤みを増してきて、気温も落ち着いてきた。
ビーチの人混みも幾分まばらになっている。
一方、海の家にはたくさんの人が集まり始めていた。
みんな何か一味違う、小洒落た雰囲気。
年齢層は高めだ。
JBLのスピーカーの前でビールを片手に。
今か今かと音を待ち望んでいるかのようだ。


準備万端となったようだ。
DJが友人へアイコンタクトを送る。
親指を立てて返事をすると、笑顔でうなずいたDJがミキサーをいじる。

そして、夕暮れ始めたビーチに”気持ちよさ”がこだました。

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