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ミッドサマーの祝祭とカルト・コミューン

一般公開の最後の最後にやっと鑑賞した(「川越スカラ座」2022年4月1日)。世にカルトムービーとして世評も高いと言うか騒(ざわ)めかせている。これは一度や、二度と見ただけでは埋め込まれ考え抜かれた構造、伏線を解き明かすのは不可能だろう。とは言えしばらく再びみるのは叶いそうもないのでここで初見の感想を書いてしまうことにする。
考え抜かれたとは言ってもそれは設定、脚本であって(脚本・監督はアリ・アスター)セットも、撮影日数も短く所謂低予算ムービーである。
あらすじは書かない。5人のアメリカ人学生が一人の学生の国であるスウェーデンの「ホルガ」と言う宗教共同体を訪ねて数々の奇妙な、現代文明人のアイディンティティを揺さぶられるセレモニーや、儀式や体験をする物語設定である。
その滞在期間中、恋人と参加した女学生ダニーの視点から、その先史文明的な宗教団体のカルト的な、秘教(オカルト)的な儀式を体験して、ダニーが次第に魂を揺さぶられてゆく物語である。
本当にこのようなコミューンが北欧に存在するのかは知らない。ただ、その世界観はボクたちが知るようなアメリカ型コミューンとは少し違うし、この国で言えばアイヌ民族のような北方的な世界観に近似したものがある。北欧にもサーミと言うラップランドでトナカイとともに生きる少数民族が現実に居住しているが、彼らの世界観ともかなり異なった世界観、宗教観で「ホルガ」のコミューンはあるようだ。古代ルーン文字がデザイン的にも重要視されていて、「ホルガ」の聖書もルーン文字で書かれ、食事の場面でも椅子が奇妙な列を作る。それはルーン文字らしい。
悲劇は「ホルガ」の秘密、秘教を大学の提出論文にしようと思いつく学生が二人も出てくるところから始まる。人は好奇心のかたまりで、秘密を暴いて世に問おう考える人物は必ず出てくる。そして競争相手を打ち負かし、抜けんでようと禁止された聖書(Rubi Radrルビ・ラダー)の隠し撮りをしようとして殺されてしまうのだ。
気持ちの悪くなる映像部分も多々あったが、実は数100人規模でも小さなコミューンは内に(秘教的な意味でも)閉じてカルト化してしまうと言う教訓を与えてくれ、事実コミューンは我が国の中でもそうして崩壊してきたのだった。
9年ごとに取り行われる「大祝祭」のメイクイーンに選ばれたダニーが、恋人クリスチャンを9人めの生贄に選んで恋人の死を見届けると、引き攣っていた口元に微笑みをたたえると言うラストシーンがいかにも恐ろしかった。
(評価)★★★★
アリ・アスター監督作品
『MIDSOMMAR(ミッドサマー)』2019年
ディレクターカット版 170分
(4月3日2022年・記)

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