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声の演技を引き込む自然な間とゆらぎを含む絵の演技と演出 「リズと青い鳥」感想と解題その4

バスケットボールが1曲の音楽になる

「リズと青い鳥」の中盤、同じクラスの夏紀とみぞれの体育の授業風景が映画に組み込まれています。内容はバスケットボール。
その、バスケットボールの一つの音、一つの動きのリズムや音程が非常に気持ちよいのです。何度も書いていますが、ここでも一挙手一投足、ボールの跳ねる音、靴のこすれる音が一つの音楽として聞こえてきます。

開かれているみぞれの心

もう一つ、ここでは夏紀とみぞれの交流が描かれる貴重な場面になっています。みぞれは非常にマイペースであるが故に、また自分に自信が持てていないために、「自分と交流を持てても楽しくないだろう」と勝手に決め込んでいるらしいと読み取れるので、ひとりで行動することが多いと感じられますが、孤独というわけではありません。できあがった絆を切り離していくということはしませんし、交流を全く絶ってしまうこともありません。

むしろ彼女は本作で描かれる時間の中で、さほど努力しているようでもなくまわりと積極的に関わるようになっていきます。特に、希美からプールに行こうと誘われたときに、「他の子も誘っていい?」と訊ね、結果大人数でプールに行ったというエピソードは印象的です。小説ではその経緯もしっかり描写されていますが、本作では梨々花が撮影したスマホの写真で、大人数でプールに行ったことをうかがい知ることができます。

役者と呼吸を合わせるというアニメの超絶技巧

本作では呼吸音が自然にセリフに組み込まれており、それが実に自然な存在感、実在感を作り上げています。そのことを示す発言が、パンフレット収載のインタビュー記事にあります。
みぞれ役の種﨑敦美さん、希美役の東山奈央さん、そして山田尚子監督3人のインタビューから引用します。

種﨑(敦美):『リズ』では、他人から何かを言われて、その言われたことを自分の中で認識してから返すっていう「間」がとてもありがたかったです。
(中略)
山田(尚子):会話が成り立つタイミングでお話ししてもらいたいっていうのはずっとあったんです。
(中略)
東山(奈央):実際に演じてみると合わせなくても自然に合う絵になっていて驚きました。
山田:良かったです。担当した演出やアニメーターたちも喜びます。

「リズと青い鳥」パンフレットpp.14~15

正直、これはおそるべきこと、超絶技巧といっていいでしょう。
アニメーションは1秒につき8枚、または12枚の時間的に等間隔に刻まれた絵を連続的に映し出すことによって作られています。そのような制約の中で、タイミングを計りつつ、呼吸のわずかなゆらぎさえも組み入れながら作画がなされていたというのです。動かしてみてようやく分かる「間」とゆらぎを演出家が構想し、原画を担当するスタッフはタイミングを合わせるように時間的な設計図(タイムシート)を作成し、おそらくさらに微調整しながら動画がすべて描かれ、最終的には監督により統御された動きと間とゆらぎを埋め込まれた状態で絵作りが行われた、ということです。

声優さんが声を録音するとき、自然に会話ができたり、ほんのわずかなこぼれた声すらも自然に演技できたというのはそういうことです。
あるいは、絵のタイミングに合わせて自然に呼吸が合っていき、作られた絵にリズムが引き込まれた結果、「自然に感じるほどに手の込んだ、創り出されたアニメーション」ができあがったと言えるでしょう。

それは全く自然ではあり得ないのですが、超絶技巧を駆使した結果、自然に感じられ、まるで自然に手を入れていないかのような、存在感、実在感があるアニメーションとして作り出されたということなのでしょう。

今回はここまでといたします。

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