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そしてふたりは歩き出す、間合いを取って寄り添って 「リズと青い鳥」感想と解題その7

「リズと青い鳥」もエンディングを迎えます。
しかし、終わるといっても、彼女らの生が終わるわけではありません。みぞれと希美の生はこれからも続くし、この前にもあったのです。あくまでこの映画は「途中から途中までを描く物語」。静謐で濃密な一つの出来事を描いていますが、それは彼女らが直面せざるを得なかった課題の一つをピックアップしただけなのです。

ふたりはそれぞれの道を歩き出す

エンディングの曲「wind, glass, girls」が流れだすと、カメラは図書室のカウンターを映し出します。みぞれは劇中の物語「リズと青い鳥」の文庫本を返却していると、そこに希美が参考書を借りに来ます。そしてみぞれは音楽室へと歩き出し、希美は図書室の閲覧所へと歩いていきます。このとき、ふたりはそれまでとは違う歩き方をしています。それぞれが姿勢を正すように真っ直ぐに立って歩き出すのです。さらに、ふたりの足音は同じリズムを刻みながら音楽となっていきます。

時に追いかけ、時に並んで、間合いを取って寄り添い歩く

みぞれがひとりで帰ろうとすると、校門では希美が待っています。先を歩いていた希美はこのとき初めてみぞれを待っています。みぞれもこのとき初めて希美に駆け寄っていきます。そしてみぞれは希美を追い越して、先に校門を出ます。初めてみぞれが希美の前を歩くのですが、しばらくすると二人は並んで歩き出します。これらの位置関係は、ふたりの関係が不可逆に、そして柔軟な形に変化したことを表しています。

いつもの帰り道、ふたりは初めて言葉のキャッチボールをします。会話をしているのです。互いに言葉をぶつけ合うのではなく、言葉で心をやり取りしてるのです。そして、ふたりは同時に同じ言葉を相手に贈ります。このとき、ふたりの足音が同期します。それは奇跡のタイミングであって、ふたりにとって特別な意味を持っています。

フィルムの最後、前を歩く希美はみぞれの方へとふり向きます。みぞれはそれを見て本作一番のびっくり顔になります。一体どんな顔を見せたのでしょうか。たぶん、みぞれがこれまで見たことの無い、そして希美も見せたことのない表情だったのでしょう。

息が合わなくても寄り添うことはできる

みぞれのリズムと希美のリズムは違います。息を合わせるのも難しいと感じさせるほどに違います。互いに素、という関係だからです。しかし奇跡のタイミングはそれぞれに訪れて、それはふたりにとっての幸せです。相手の息遣いを、言葉を、想いを互いに交わし合い、受けとめ合うことで、ふたりは互いの思いを共有することが出来ます。

たとえ息が合わなくても、それぞれが歩む生き方が違っていても、それぞれの関係に固有な間合いを取って歩けば、寄り添って歩くことも出来るのです。

これで「リズと青い鳥」の感想と解題は一区切りです。
ありがとうございました。

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