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先行公開『ロバート・ツルッパゲとの対話』

モノには順序がある、ということで、本の後書きだけ先行公開いたします。売り上げに直結いたしますので、皆様、Twitter、Facebookへのシェアをお願いします。シェアしてくれたかどうかはしっかりメモっておきます。

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後書き

「ある程度売れる」という究極の難題である。

本を出したんですね。
ええ、売れませんでしたけど。

これは何かをやったうちに入らないと俺は思っている。じゃあ売れればいいのか、と言われるとそれもちょっと違う。人目を引くためだけの表現が長期的な信頼をなくす、というのはネットニュースのえげつなさを見ればすぐわかる。

自分がこういうものが好きだという考えの塊を認めてもらった上で結果を出さなくては、作って発信する楽しみが何もない。この「売れる」という極めてデリケートで乱暴な基準を甘く見たらいけない。

ダメで売れない人、いいモノを作っているが売れない人、ダメなモノでも売れている小太りな人、いいモノで売れている人。いろんな人がいるけど、社会から認められているのは後半の「売れているふたり」であって、尊敬されるのは「最後のひとり」だけなのだ。

キングコングの西野くんの本があれだけ売れているのは、本の内容はもちろん、売るためにすべきことを本人がキッチリやっているからだ。彼はクリエイターがモノを作ることを子育てにたとえている。作品を生んだあとは俺の仕事じゃないから誰か宣伝してくれ、というのは無責任な「育児放棄」だと言った。これは素晴らしい表現だと思う。だからその言葉は、俺と一緒に考えたことにして欲しいと思う。

俺はそもそも文章を書く人じゃない。本が出せたのは、「外部からしか見えない穴」を見つけられたんだろうと思う。知名度どうこうではなく、俺に本を書かせてくれた編集者の吉満さんには感謝している。実はそれ以前に別の出版社からもオファーをいただいていた。でも吉満さんが写真展会場に来てくれて、「アニさんの最初の本は他の出版社ではなく、うちから出したい」と熱心に言ってくれたのだ。ありがたい。

俺はバカだから、何かをしようと思うとずっとそれだけやってきた人みたいに自分を騙すことができる。他人ではなく、まず騙すべきなのは自分なのだ。40代で急に写真家になろうと思いついて写真を撮り始めたが、その俺が今年、日本広告写真家協会の審査員を依頼された。劇的におかしい。

「俺がこんなことをしてはたして成功するのだろうか」というマーケティングやポジショニングをまったく考慮しないというのは、バカ特有の頭の悪さというか、けっこう特殊な才能だと思う。多分本が出る頃には、一生を出版に賭けてきましたから、みたいな文豪ヅラになっていると思う。才能がない分、そういう無神経さで乗り切ってきたのだ。

俺が見てみたい風景はたったひとつ。俺が書いた本をカフェや電車で読んでニヤニヤしている「うすらバカ」を一人でも多く見てみたい。高校生の俺が筒井康隆さんの本を読んでいたときみたいに。

レストランのシェフなら、美味しいと言ってもらう。文章を書いたら面白いと言ってもらう。それは自己承認欲求なんて下品な言葉じゃなくて、子供が描いた絵を母親から褒められるような幸福だ。それでナンが三枚は食べられる。その、一人でも多くの人にカジュアルに褒められる、というのを下世話に言い換えると「売れる」ってことになるんだよね。

自分がしたいことをする。したくないことはしない。それを哲学と呼ぼうが、何と呼ぼうがどうでもいい。人が生まれて、死ぬ。スイッチがパチン、パチンと二回音を立てる数十年の間に、何をすべきか真剣に考えることは無意味じゃない。

誰かが決めたルールに縛られて、本当に自分がやりたいことを後回しにするな、というのがロバートの口癖だ。つまり、この本を読んだ人がロバートが理想とする「知を愛する人」になってくれればいいと思っている。

ウィトゲンシュタインは屋根に登るためのハシゴは登り終わったら不要になると言っているが、この本もそうなれるとうれしい。レッツ・ブックオフ。
                             

渋谷のセンター街・バーガーキングにて ワタナベアニ

2020年1月末発売。ご予約はこちらへ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4908586071/

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。