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「鉄則」

いつも撮影から仕事場に戻るとすぐにデータを2台のHDDにコピーする。これが終わってやっと「撮影終了」。

外国でのロケの場合はHDD2台とSDカードはそのまま、クライアントにも一台のHDDを持ち帰ってもらっている。

大昔だけど、フィルムを現像所に届ける前に食事に行ったことが発覚したアシスタントが、カメラマンにビンタされているのを見たことがある。

撮影済みのフィルムはトラブルがないようにどんなことがあってもすぐに現像に出さなくてはいけないのが鉄則だからだ。

ビンタという暴力の是非はこの際どうでもいいんだけど、そのアシスタントは二度とその失敗をしなかったと思う。偶然その様子を目撃した俺も絶対にしないくらいだから。

仕事には数千万円の予算がかかっているので、失敗したら撮り直しができない。その緊張感は仕事の規模が大きくなるほどプレッシャーとしてのしかかってくる。

厳しいことで有名なある人のアシスタントをしていたカメラマンのAさんと話したとき、信じられないほど膨大な「鉄則」を聞いた。俺は数十年デザイナーとして撮影現場にはいたけど、カメラマンのアシスタントをした経験がないから、そのほとんどを知らなかった。

お金をもらって仕事をするって、やっぱりどんな職種でも厳しいことなんだなあと感じた。

Aさんが防水のSDカードケースを見せてくれた。「最悪、水の中に落としてもデータが守られるから」という話を隣で聞いていた別のカメラマンが、「あ、そういうの便利っすね。俺はいつもここに入れているんで」と、タバコの箱を見せる。セロファンの隙間に2枚の撮影済みSDカードがむき出しで入っていた。

Aさんと俺はそれを見て絶句した。「彼は一度とんでもない目に遭わないとわからないだろうなあ。」と、同じことを考えていたと思う。でも、でもそれ以前に大きな仕事を任されることはないだろうとも感じた。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。