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最初のデートで観た映画。(途中まで)

あれは数年前の夏のことだった。
いきなり、僕の目の前にあらわれた一人の女性。
海の見えるカフェ。笑顔が素敵だ。
大きなブランド物のボストンバッグを持っていた。

彼女は一人で窓際の席に座り、誰かと電話をしていた。
気になるのは電話の相手だけど、そんなことはどうでもいい。
クリスマスの直後に長く付き合った彼女と別れ、僕の中からは
恋愛という単語がなくなりかけていたんだけど、
その横顔は僕にそれを思い出させてくれた。
今朝のテレビの占いで、ラッキーアイテムはボストンバッグと
言っていなかっただろうか、いや。
子犬だった。

さりげなく彼女の横を通り抜けてトイレに行く。
知っている香りがした。好きだった彼女と同じ香水を
つけているのがわかって、胸が苦しくなった。
背中からふわっと漂ってきたその香りに、
僕は失いかけていた「恋愛」という単語帳の
破れたページを見つけたような気がした。
それは悪い気分じゃなかった。

たまたま来たそのカフェは、よく前を通っていたのに
なぜか入ったことがない店だった。違う。
つい入ったのには理由があるのだ。
店内に見えた映画のポスターが僕をひきつけた。
『トゥルー・ロマンス』は、彼女との最初のデートで
観た映画だ。

「なぜ最初のデートがあれなの」と、映画が終わったあとの
カフェで彼女に聞かれた。二枚チケットをもらったからだよと
嘘をついた。沼袋の、今はもうなくなってしまったカフェ。
「ねえ、私たち、つきあうことになるのかな」
のぞき込んだときの彼女の顔を、

この結末は、定期購読マガジン「博士の普通の愛情」で。https://note.mu/aniwatanabe/n/n1902392a374b

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。